1. はじめに
地中熱ヒートポンプ(GSHP)システムは,地下浅部(100m程度)に存在する熱(地中熱)を熱源として冷暖房や融雪などを行う再生可能エネルギーの利用形態の一つで,日本での導入が近年増えつつある(環境省,2015).GSHPシステムの設計にあたっては,事前に原位置において熱応答試験を行い,地点の見かけ熱伝導率(地盤の有効熱伝導率と地下水流れによる熱移流効果が合成された熱伝導率:以下λ)を測定する調査が重要であるが,試験のコストや簡易性などの点に課題がある.神宮司ほか(2002,2010)は,土木建設の事前調査で行われる標準貫入試験時に掘削される地質調査孔を用いた簡易熱応答試験を考案し,本試験によってコスト削減や試験の簡易性を実現できるとした.
産総研と福島県地中熱利用技術開発有限責任事業組合(ふくしま地中熱LLP)は,神宮司ほか(2010)に基づく簡易熱応答試験の実証評価と標準化を目的として,2018年度に福島県中通り地域を中心とした15地点(福島市,郡山市,須賀川市など)において簡易熱応答試験と従来型熱応答試験を実施した.本発表では,簡易熱応答試験で得られたλについて,岩相ごとにλ値の傾向をまとめるとともに,各地点のλ平均値と地形・地質との関係について考察する.
2. 調査方法: 簡易熱応答試験
15地点において,掘削した地質調査孔(孔径66 mm,深度50 m,ノンコア)内に設置したボーリングロッドを水で充填した後,バインドされた長さ50 mのケーブルヒーターと多点温度センサー(1 m間隔,51点)を挿入し,定電力出力装置を用いて20 W/mで加熱した.加熱時間は48時間以上,加熱停止後の温度回復時間は60時間以上で,その間の温度データを取得した.加熱時の温度グラフから作図法によってλ値を求め,掘削時のスライム試料から推定された地下地質情報に基づき,地質(岩相)ごとにλ値を分類して整理した.
3. 岩相ごとの見かけ熱伝導率
図1 に礫層,砂層,泥層(シルト・粘土),凝灰岩,花崗岩のλ分布を示す.各岩相のλ値のピークは,礫層が1.6,次いで2.0-2.1 [W/(m・k)],砂層が1.4 [W/(m・k)],泥層と凝灰岩が1.2 [W/(m・k)],花崗岩が3.1 [W/(m・k)]であった.これらの値は文献値(地中熱利用促進協会,2014)と概ね調和的である.各岩相の度数分布は,正規分布に近い形状を呈するが,全体的にやや右に凸の傾向がみられる.これは,地下水流れの影響を強く受けた地層でλ値が大きくなっているためと考えられる.帯水層となる礫層はλ値分布が右に凸になる傾向が顕著である.また,花崗岩でλ≧3.4の頻度が突出しているのは,亀裂内を地下水が流れていることを示している可能性がある.
4. 試験地の見かけ熱伝導率平均値と地形・地質との関係
15地点の深度別λの平均値をそれぞれとると,4地点がλ≧2.5,4地点がλ<1.5を示し,残りの7地点が1.5≧λ>2.5であった.λ≧2.5の地点は,①阿武隈山地と②福島盆地の扇状地に位置する.①は花崗岩の熱伝導率に由来し,②は活発な地下水流れの影響に(熱移流効果)によってλが上昇していると考えられる.λ<1.5の地点は深度10-20 m付近から凝灰岩(白河火砕流堆積物)が厚く分布する段丘や谷底平野にあたる.λ値が低い要因は,凝灰岩のλ値に由来すると推定される.中間的な値を示した地点は,地形・地質条件が様々であるため,条件の組み合わせを個別に評価する必要がある.
今後は,従来型熱応答試験で得られたλ値と比較し,簡易熱応答試験の有効性を検証する.また,福島県内の他地域でも同試験を実施中であり,2020年度までに県内のλデータの蓄積を目指す.
文献:地中熱利用促進協会 2014. 地中熱ヒートポンプシステム 施工管理マニュアル.173p. 神宮司ほか 2002. 地熱学会誌 24: 349-356. 神宮司ほか 2010. 地熱学会誌 32, 185-191. 環境省 2015. 地中熱利用にあたってのガイドライン.154p.
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