【はじめに】膝複合靭帯損傷は,膝関節外傷の中でも最も重篤なものの一つである.今回,多発外傷に伴う左膝複合靭帯損傷を呈し,異所性骨化を合併,関節拘縮により二回の関節授動術を施行,理学療法(以下PT)に難渋した一症例について左膝関節可動域(以下ROM)を中心に,経過および考察を含め報告する.
【症例紹介】年齢24歳,女性,身長153cm,体重52kg
診断名:左膝複合靭帯損傷(ACL・PCL・MCL・LCL),左股関節脱臼,右足関節脱臼骨折,右恥骨骨折. 合併症:膝関節内・外側異所性骨化(+)
【経過】H14.10.31交通事故にて受傷,当院入院.左股関節・右足関節整復.11.7左PCL人工靭帯再建術,MCL・LCL修復術施行.AKcast屈曲20°固定.右足関節プレート固定術施行.11.13PT開始.11.30cast off左膝ROMex開始.H15.1.16一回目膝関節授動術(以下A)施行.5.6二回目膝関節授動術(以下B)施行.9.1職場復帰.
【手術所見】A:内外側膝蓋下,滑膜,膝蓋上嚢に癒着(+),lateral release
B:膝蓋上嚢の癒着少なく,外側膝蓋下よりlateral release
【評価】(A前)膝屈曲40°Quad.・Ham.3(A後)膝屈曲75°Quad.・Ham.3-(B前)膝屈曲90°Quad.・Ham.4-(B後)膝屈曲100°Quad.・Ham.3-(職場復帰時)膝屈曲130°Quad.・Ham.4
【理学療法】(A前)(1)浮腫管理(2)patellaモビライゼーション(3)patella setting(4)膝屈伸自動介助運動(5)超音波療法
(A後)(1)-(3)継続,(6)股関節内外転振り子ex(7)Quad等尺性・等張性運動(8)膝蓋支帯・関節包・靭帯の伸張(9)エルゴメーター(10)膝関節持続牽引(11)ROMex
(B後)(1)-(3)(7)-(11)継続,(12)大腿筋膜張筋・VL収縮・伸張
【考察】複合靭帯損傷再建術後のPTは長期間に及ぶことが知られているが,本症例は,異所性骨化を合併,さらに長期化することが予測できた.cast off後,不動による拘縮,筋力低下,Ham.張力での膝屈曲禁忌など再建靭帯への負担を考慮したPTが必要であった.A後は,筋・靭帯・関節包の損傷が大きく,PTでは疼痛増強,粘性の高い腫脹の存在,膝関節上下・内外側の伸張性低下,筋出力低下が阻害因子となり,ROM改善に難渋した.B後のPTは,外側支持機構の伸張性獲得を中心に実施した.授動術後のROM維持,疼痛・腫脹の軽減には筋出力が重要で,術前PTによる筋力強化は術後の改善に良い影響を与えたと考えられる.手術所見より,膝蓋上嚢・外側支持機構の拘縮を認め,今後,早期の伸張性確保が重要と思われる.今回,RPT2人での固定と操作に分けたROMexは,安全で効率的に癒着剥離し,ROM改善に有効であったと考えられる.
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