【目的】パルスオキシメータは低酸素血症の非侵襲的評価機器として臨床場面で繁用されており,いまや第5のバイタルサインといわれている.リハビリテーションの現場でもバイタルチェックや運動耐用能の評価,在宅酸素療法導入の指標などに使用される.当院でも慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)患者の低酸素血症の評価に使用しているが運動中または運動後の数値の著しい変動や低下が認められ信頼性に疑問を持った.
経皮的酸素飽和度(以下SpO
2)測定におけるセンサーの種類には手指,足趾,耳朶,前額部などがある.手指センサーは指先に装着でき簡便なため多く領域で最も広く用いられる.しかし体動や低灌流状態などで正確にモニタリングできない場合があることや,ディレイタイムが生じることなどの問題点が指摘されている.手指センサーに対し前額部センサーは低灌流状態や体動,ディレイタイムに感受性が高いとされている.四肢末梢の動脈は交感神経の反応に強く影響を受けるが前額部の血流は内頸動脈から分岐する眼窩上動脈によって供給されるため交感神経系の影響がほとんどなく,末梢血管収縮作用を受けにくい.そのため低灌流状態で四肢での測定が困難な場合は前額部での測定が有効とされている.
そこで今回COPD患者を対象に前額部センサーを用いて手指測定の信頼性について評価した.
【方法】対象は当院リハビリテーションセンターに依頼があったCOPD患者12名(男性11名 女性1名 平均年齢80.8±8.31歳).NELLCOR社製パルスオキシメータN-560を使用し,安静時と運動後のSpO
2を手指と前額部を同時に測定した.前額部センサーはMax-Fastを使用しヘッドバンドで固定した.手指センサーは粘着テープ式センサーD-25を使用した.5分間の安静坐位の後,修正Borg スケール4程度(多少強い)の歩行を行ってもらい安静時の安定した値と運動後の最低値を記録した.解析方法は対応のあるt検定を用い,有意水準5%未満とした.
なお本研究は当院倫理委員会の承認後,ヘルシンキ宣言に基づいて被検者に本研究の内容および危険性について説明し同意を得て実施した.
【結果】安静時手指測定では平均96%±2.76に対し前額部では98±%1.51.平均の差は2.08%前額部が高かった.運動後手指測定では平均89%±6.01に対し前額部では91%±5.91で平均の差は2.25%前額部が高かった.解析結果では安静時,運動後ともに手指に対し前額部が有意に高い(p<0.05)測定値を示した.
【考察】パルスオキシメータの各社の製品説明書では誤差±2%(測定範囲70~100%),国際規格であるISO9919では誤差±4%(測定範囲70~100%)と表記されている.今回の調査では安静時,運動後ともに手指に対し前額部が有意に高い測定値を認め,平均の差はそれぞれ2%であった.これらの結果よりISO規格の範囲内でSpO
2は信頼できるものと考えられる.
本研究のSpO
2モニタリング中,手指測定において激しい変動を認めても,前額部測定では安定的な測定値が得られた.急激な数値の低下や変動は握りこみなどでの異常値である場合もある.特に歩行器を使用した歩行で著しい変動が観察された症例があった.このような数値の変動が激しい場合は前額部センサーの使用が推奨される.
【まとめ】今回の調査では手指測定に対し前額部測定が有意に高い値を示したが,ISO規格の誤差範囲に留まった.数値の変動が激しい場合には前額部センサーでの測定の必要性が示唆された.
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