本シンポジウムのテーマである<スポーツが“ひと・社会”の平和的な発展に果たすことができる役割と方法論>には、多様なアプローチが存在するが、スポーツ医科学から舞踊教育、そしてスポーツ哲学まで、幅広い研究者を擁する学際的な日本体育学会は、学際的な研究を通して、多くの社会課題の解決に向けた具体的な解決策(ソリューション)の提供が可能である。それゆえ、筆者の専門領域であるスポーツマネジメントにおいても、基礎研究から応用研究、そして実践的な研究成果としての政策提言まで、社会の動きを正しく先導する科学的知見の蓄積が求められている。
少子高齢化が進み、地域活力が減衰する中、スポーツによる地域振興は急務の課題である。その中でも特に地域スポーツの振興は、地域住民の健康づくりやスポーツ参加機会の増大において重要な政策課題であり、今後ポスト2020に向けた具体的方策が必要とされる。1995年に始まった「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」は、全国に約3500か所のクラブを創設するなど制度的普及を成功させたものの、補助金ありきの政策は、総合型クラブ事業の自走化を妨げる要因にもなり、現在も約半数のクラブが自己財源率50%という状態が続いている。新しい地域スポーツ振興を担う中核は、同好の士がスポーツを楽しむ「共同体」の集合体ではなく、個々の共同体を支援することができる「機能体」としての事業経営体である。補助金への依存体質から脱却した地域スポーツの<エコシステム>をどう構築するか、大きなパラダイム転換が求められている。
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