【目的】高等学校学習指導要領家庭科における専門科目「フードデザイン」の目標は「栄養,食品,献立,調理,テーブルコーディネートなどに関する知識と技術を習得させ,食生活を総合的にデザインする能力と態度を育てる。」である。本研究では,テーマに応じた献立作成から調理,テーブルコーディネートとサービスまでの一連の実習を通して学習を進める科目「フードデザイン」の内容(3)「フードデザイン実習」が,食事を総合的にデザインする能力を把握するために適していると考え,フードデザインで学習する一連の内容をできるだけ多く取り入れた単元を設定し,目標達成のための指導方法を工夫するとともに, その指導による生徒の目標達成度を把握するためのワークシートを用いた評価方法を提案, 実践し, それらの成果を検証することを目的とした。
【方法】広島県立高校の家庭に関する専門学科の3年生を対象とし(2年次,3年次に各々2単位ずつ4単位履修),2009年,2010年のいずれも10から12月に12時間程度の単元で実施した。実践1(2009年度):本単元は,他の班をもてなすことを主眼におき,ライフステージの栄養の特徴・テーブルコーディネートといった内容を盛り込み,これまでフードデザインで学習した内容を総合的に学習する流れとした。各ライフステージにおける1食の食事に必要な栄養のバランスを考え,もてなす班のリクエストを加味して一汁三菜を基本に献立を作成し,実際に調理して盛りつけ,リネン等を考えながらテーブルセッティングした。その後,献立についての発表と相互評価を行った。実践2(2010年度):単元名は「調理実習の段取りと献立作成」とし,1.自分たちの調理実習における行動を分析し,無駄な動きや能率的でない点を考え,手順や動作の改善によって調理時間の短縮を行う。2.短縮した時間を利用して,テーマに沿って一汁二菜の献立に追加する調理を考える。3.考えた献立を実際に調理しまとめを行うという流れで能率のよい調理とテーマに沿った献立作成についての学習を行った。調理実習中に,教師が10分毎に調理台の5箇所と試食台での定点撮影を行い,時間の推移による撮影場所ごとの変化がみえるように写真を並べた資料を班ごとに作成し,資料を基に調理実習の様子を振り返らせ,自分たちの作業等を評価させた。
【結果】実践1後の生徒の自己評価では,「他の班をもてなす実習は楽しい」,「もてなす班への配慮ができた」と答えた生徒は97.0%であった。また,全員が「他の班をもてなす実習には意義がある」と答えた。また,ライフステージ別の設定で,各班の出来上がりを見て発表を聞いたことによって, 各ライフステージの特徴の理解につなげることができた。実践2の学習後の生徒の自己評価でも, 授業前は「テーマに沿った献立作成ができる」という項目において肯定的に答えた生徒は7割であったが, 授業後は9割以上に増加した。また,「献立にふさわしいテーブルコーディネートができた」についても肯定的に答えた生徒が6割から9割に増加した。科目履修後の調査では,ほとんどの生徒が両年とも「調理技術が向上した」,「2年間学習してよかった」,「以前より食生活への関心が高まった」と答えていた。さらに学習を通して「家庭で調理する機会が増えた」(2009年86.0%,2010年73.0%),「日常の食事で栄養バランスを考えるようになった」(2009年94.0%,2010年86.0%)等,学んだことが自分や家族の食生活に生かすことへとつながっている様子が伺えた。また,「調理に関することをもっと学びたい」と考えている生徒も2009年は97.0%,2010年は85.0%おり,「フードデザイン」の学習が, 2年間の指導方法の工夫によって, 生徒の「食」への関心を高め,意欲的に実習等に取り組ませ,調理技術の向上や知識の広がりにつながったことが明らかになった。
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