日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第55回大会・2012例会
セッションID: A3-6
会議情報

第55回大会:口頭発表
ホームプロジェクトにおける自己評価と相互評価の効果に関する研究
*小桝 由美長谷川 真由美長谷中 久美鈴木 明子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】ホームプロジェクトは,生徒が各自の家庭生活の中で課題を見出し,解決を目指して計画・実践する学習活動である。1949年の新制高校の発足とともに教育課程に導入され,現在も学習指導要領に位置づけられている。平成25年度から実施される学習指導要領においても,家庭科の学習を実際の生活と結び付け,課題解決学習を行う学習として一層の充実が求められている。
 ホームプロジェクトに関する先行研究には,多々納ら(2001)の高校生のホームプロジェクトに関する実態と意識についての調査や,伊波(1989)の学習指導要領におけるホームプロジェクトに関する記述と,ホームプロジェクトの手引書から,高校家庭科の教育課程における位置づけの変遷について述べたもの,柴(1997)の占領下における家庭科教育の成立について扱った一連の研究などがみられる。しかし,指導法に関するものは加藤ら(2011)によるグループ学習を用いたテーマ設定の効果について検証したものなどが散見されるのみである。
 そこで本研究では,「家庭基礎」におけるホームプロジェクトに自己評価及び相互評価を取り入れた指導法を提案し,その効果を検証することを目的とした。
【方法】2011年の7月から8月に広島県立S高校の1年生80名を対象として,夏季休暇中の家庭での実践を含む4時間の題材で実施した。対象としたクラスは,工業,商業,家庭に関する学科に所属する生徒が混在するクラスであった。従来のホームプロジェクトの指導は,「ホームプロジェクトの意義と進め方について説明し,生徒に各自実践させる」ことが一般的である。しかし,生徒の家庭生活に対する関心の低さから課題を見つける段階でつまずく生徒も多くみられる。そこで,1学期に学習した内容の中から,「家族の朝食大作戦!」,「愛着のある衣類をよみがえらせよう」などいくつかのテーマ例を提示し,その中から自己の生活課題に近いテーマを選択し,実践に結び付けるよう指導を工夫した。また,家庭に関する学科に所属する生徒については,自己の生活課題をテーマとするよう指導した。ホームプロジェクトの実践後は,発表会を行い,自己及び他者のホームプロジェクトに対する評価を行った。同時に,他者のホームプロジェクト発表によって再度,自己評価を自由記述で求めた。さらに,年度末にホームプロジェクトを通して学習したこと自分の生活に役に立っているかどうかについて自由記述させた。
【結果】生徒が選択したテーマは,食生活に関するものが44.9%,衣生活に関するものが1.3%,住生活に関するものが19.2%,自己の生活課題が34.6%であった。自己の生活課題の中でも食生活を扱ったものが多く,あわせると75.6%の生徒が食生活を題材にホームプロジェクトを行っていた。発表後に行ったホームプロジェクトの手順(題目設定,実施計画,実施状況,反省)についての自己評価(5段階評価)では4点以上の高得点であったものがいずれも約6割であった。所属学科別に見ると,現代ビジネス科(商業),人間福祉科(家庭)で高い傾向が見られた。また,発表後の自由記述からは,生活課題の解決に向けてその方法を追求する姿勢の高まりや自己の生活課題を別の視点から改めて見つめ直そうとする姿勢がうかがえた。年度末の調査では,「課題を見つけ自ら解決しようとすることができた」,「自分の暮らしぶりを振り返ることができた」という項目において肯定的に評価した生徒は,それぞれ63.3%,68.4%であった。また,学習が自分の生活に役立っているかについての記述からは,各自の生活課題に敏感に気づくようになった様子や自ら課題解決に向けて継続して実践している様子がみられた。ホームプロジェクトに自己評価と他者評価を取り入れたことで自己の生活を多面的に見つめる機会となったり,自分のホームプロジェクトを客観的にとらえ,方法を修正したり,他者からの肯定的評価により実践意欲を高めることにつながったと思われる。

著者関連情報
© 2012 日本家庭科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top