I はじめに
小売業により都市の空間構造を究明する研究においては,店舗の立地および買物トリップを関連付ける必要がある.なぜなら,都市を機能地域の集合体として捉えた場合,店舗はその機能中心であり,買物トリップは機能地域を示すからである.従来の研究において店舗立地を分析する際には集計データが用いられることが多く,厳密な店舗の位置情報が損なわれてしまっていた.また,買物トリップの分析においても,定性的な表現をされることが多かった.本研究では地方中心都市である徳島県徳島市を事例とし,店舗立地および買物トリップパターンにより地方都市の空間構造を究明する.ただし前述したような問題点を解決するために,次のような方法を用いる.店舗立地を分析する際には,店舗の位置情報をGISにて管理し,交通網や人口分布などと定量的に関連づける.また買物トリップパターンを分析する際には,トリップパターンをトリップ数により重み付けされた点分布とみなし,その標準偏差楕円を描くことにより形状判断を行う.
II 店舗の立地分析
徳島市におけるコンビニエンスストア(CVS),デパート,ショッピングセンター,スーパーマーケット,ホームセンターについて,店舗と主要道路(国道および県道)との距離,最近隣主要道路における交通量,人口分布と売場面積を考慮した理論商圏人口をそれぞれ算出し,店舗の立地特性を示す.その結果,デパートやショッピングセンターといった高次の商業施設およびオフィス立地型CVSは
徳島駅
前付近に,ロードサイド型ショッピングセンターは
徳島駅
から半径約5kmに広がる市街地の主要道路沿いに,スーパーマーケットは広く市街地に,そしてホームセンターやロードサイド型CVSは郊外の主要道路沿いにそれぞれ立地することが明らかになった.
III 買物トリップのパターン分析
買物トリップが一定数以上集中する地区を「商業核」として選出し,その商業核への買物トリップパターンを描くことにより,商業核の分布およびトリップパターンの形状を分析する.その結果,トリップパターンが主要道路の方向に卓越すること,河川(特に吉野川)が買物トリップに対してバッファーとして作用すること,
徳島駅
前および郊外に位置する商業核への買物トリップパターン面積が相対的に大きくなること,そしてデパートの立地する商業核へのトリップパターンがほぼ徳島市全域を正円状に覆うことの4点が明らかとなった.
IV 店舗立地および買物トリップパターンによる徳島市の空間構造
鉄道・バスなど公共交通の結節点であり,最も利便性の高い
徳島駅
前には,デパートやショッピングセンターといった大規模かつ高次の買回り品を扱う店舗や,都市回遊者を対象とした店舗が立地する.この地区への買物トリップパターンは,道路網や河川網に関係なく徳島市域を越えて周辺市町村にまで広がる.市街地における幹線道路沿いには,自動車利用客を対象としたショッピングセンターやホームセンター,規模の大きなスーパーが立地する.こうした地区への買物トリップパターンは,徳島市全域に広がるが,道路網や河川網により形状が偏る.市街地全般には,CVSや規模の小さなスーパーマーケットが広く立地する.これらの地区への買物トリップパターンは,上記の2つに比べて相対的に小さくなり,また道路網や河川網の形状に対する影響がさらに強くなる.市街地外における自動車交通量の多い主要道路沿いには,ホームセンターやロードサイド型CVS,スーパーマーケットが主要道路に沿い立地する.このような地区への買物トリップパターンは,主要道路に沿って比較的大きく広がる傾向にある.
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