入門講座「結晶学の原点を読む」の第4回目は, 直接法の原点となったD.Sayreの論文を取り上げました.結晶構造解析は, ごく限られた専門家達の研究対象かつ独占的道具でした.それが, 物質研究者すべてに便利な道具として認知され, また必須な手法となったのは, 測定法の進歩 (自動回折計の出現) ・大規模計算の可能化 (コンピュータの進歩) を挙げることができますが, まず何よりも大きなブレークスルーは「位相問題」が解決したことと言えましょう.我々が測定できる結晶面からの散乱強度の情報は, その絶対値だけで位相の情報が顕には含まれていません.多くの結晶面からの散乱強度を数学的に処理し, 不等式関係を持ち込むことにより位相の情報を得ていく方法は, 直接法として知られています.直接法確立へ大きな貢献をした, J.KarleとH.Haupmannに対し, 1985年ノーベル化学賞が授与されています.しかし位相問題の解決は決してこのお二人だけの業績ではなく, 何人もの結晶学者の研究の積み重ねの上に成り立つものと言えましょう.この欄では, 単純平易な発想から利用頻度の高い位相関係式を導いたSayreの論文を基に, 直接法の基礎も含めて解説していただきます.
抄録全体を表示