【目的】
近年、心臓外科の領域では早期離床が定着し、術直後からの心臓リハビリ(以下:心リハ)がルーチンに実施され早期自宅退院が可能となった。しかし、複雑な疾患も増加傾向にあり、規定のリハプログラムから遅延・逸脱するケースも多くなってきている。そこで今回、冠動脈術後・弁膜症術後・大血管術後の3群で、それぞれの遅延要因を明らかにするため、比較検討した。
【対象と方法】
2009年(1月から12月)に当院で冠動脈・弁膜症・大血管の単独手術を受けた408例(冠動脈群:221例 男/女=175/46平均年齢;67.2±10歳、弁膜症群:155例 男/女=81/74平均年齢;64.2±13歳、大血管群32例 男/女=24/8平均年齢;70.3±8歳)を対象とした。当科独自のリハプログラムより逸脱した症例の時期別遅延要因をカルテより後方視的に調査した。
【結果】
冠動脈群の時期別遅延因子は緊急症例、呼吸器合併症、不整脈、創トラブル6例ずつ(2.7%)、循環動態不安定5例(2.3%)、人工透析、術前からの低ADL、休日、 不整脈、他疾患の手術4例ずつ(1.8%)の順に多かった。
弁膜症群の時期別遅延因子は不整脈9例(5.8%)、呼吸器合併症7例(4.5%)、血圧異常6例(3.9%)の順で多かった。
大血管群の時期別遅延因子は術前からの低ADL、他疾患の影響3例ずつ(9.4%)、呼吸器合併症、循環動態不安定、点滴ライン、不整脈2例ずつ(6.3%)の順で多かった。
【考察】
全群に共通する遅延因子は呼吸器合併症であり、手術時間、人工心肺使用時間、挿管時間、術後バランス量等が呼吸器離脱の遅延や無気肺・胸水貯留などの呼吸器合併症を惹起させ心リハ進行の阻害因子となったと考える。
冠動脈群では緊急症例の遅延例が目立つが、手術が夜間帯のため抜管遅延、状態悪化後の手術での循環動態不安定、手術・挿管時間の延長等が遅延因子としてベースにあり、さらに臥床からくる肺合併症が影響を与えたと考える。
弁膜症群は、弁膜症による心臓の器質的変成と侵襲による刺激伝導系の変性や心筋の瘢痕化・繊維化等が不整脈を惹起させ心リハ遅延に関与したと考える。
大血管群は大動脈瘤破裂による生命の危機回避のため、術前からADL制限または自己抑制が加わるケースが多く、術前からの低ADLが心リハ進行の妨げになったと考える。
【まとめ】
冠動脈疾患・弁膜症・大血管術後の3群における時期別遅延要因には、それぞればらつきが認められた。冠動脈術後は緊急症例・呼吸器合併症、弁膜症術後は不整脈、呼吸器合併症、大血管術後は術前からの低ADL、他疾患の影響が遅延要因の中心であった。
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