京都大学イラン・アフガニスタン・パキスタン学術調査隊が,アフガニスタン北部カタガン州タシュクルガンのシュールテペで採集した13~14世紀頃の
手榴弾
と称せられる素焼の破片について考古化学的研究を行なった。黒色火薬を戦争に用いたことは文献上明らかであるが,その実物は推定されるにとどまっている。今回はカリウムについて化学的な立場から裏づけを試みた。1961年に得た試料1は高さ10cmくらいの紡錘型の素焼の壷で口の内外,素地などについて発光分光分析による定性を行なったが,積極的な証明は得られなかった。1963年にふたたび試料IIを得たので定性分析を行なった結果,いずれの部分にもカリウムの存在が認められた。そこでテトラフェニルホウ酸ナトリウムにより重量分析を行なった。試料を細粉とし,Lawrence Smith法により溶融後,熱純水で処理しテトラフェニルホウ酸ナトリウム溶液で沈殿を析出させ,乾燥後秤量した。その結果酸化カリウムとして内壁の付着土に3.10%,外壁の付着土3.27%,採集地点の土2.84%,他の採集品に付着した土2.57%で破片の付着土にもっとも高い値を示している。素焼本体は2.87%で埋没中に素焼からのカリウムの溶出とは考えられない。この破片にはカリウム含有量の大きいものが入っていた結果と思われる。このことは試料が
手榴弾
の破片であることを示唆するものと考えられる。
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