フランス語/イタリア語は,スペイン語/英語とは異なり,「右方転位」の自由度が大きい.Abneyの構造[DP D-NP]に即して言うと,フランス語/イタリア語のNPと不定DPは,PPと同様に,右方向に転位することが可能である.VPの右側の転移された付加語@は,一般に,再述
接語
代名詞(resumptive clitic pronoun)を束縛する.PP,NP,不定のDPの場合のように,@がde/di'of'によって導入される場合には,再述
接語
はen/neとなる.スペイン語はこのような
接語
をもっておらず,
接語
はすべて確定DPに関連付けられている.
接語
のen/neは,しばしば,DPの中のXPに関連付けられるように見えることから,先行研究では,
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がVに付加されるために「上昇する」とされてきた.しかし,KayneとMilnerは,@の右方転位はen/neの生起よりも広汎に起こることを示している.@がPPの中に生成されるか,確定のDPを指すときには,en/neは生じない.前者の場合には,下接の条件により,@はVの補語を越えて移動することはできない.
本稿では,無形の@(=NP,DP,PP)は自由に右方に転位できると主張する.すなわち,フランス語/イタリア語では,@が有形であっても無形であっても,[vp[vpV…ti…]@i]がen/neのすべての起源であると主張する.したがって,言語に依存するアドホックな
接語
上昇を仮定する必要はない.むしろ,フランス語/イタリア語の比較的自由な右方転位という事実は,ロマンス語の
接語
に関する一般的な「同一節内」条件により,フランス語/イタリア語にはen/neがあらわれること,およびスペイン語には対応するものがないことを正しく予測するのである.
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