本研究は,中国農村における社会保障制度の中で最も基本的な農村医療保険制度である合作医療制度について,その歴史と現状を分析し,今後の方向について考察する。中国の医療保険制度は,公費医療,労働保険および農村集資医療(合作医療)に大別されるが,このうち,合作医療の対象は農村住民である。合作医療制度の変遷をみると,(1)建国から
文化大革命
の1970年代までの発展期,(2)1979年以降の改革開放路線下の崩壊期,(3)1987年からの回復期の三つの段階に分けられる。発展期では,合作医療制度は,農村合作化という背景下で発足し,その後,
文化大革命
を契機として,政治的な要因により,急速に発展した。しかし,崩壊期に入ると,人民公社の解体と政府政策の不明確,および合作医療制度自身の問題などにより,合作医療制度はほぼ全面的に崩壊した。1980年代後半から,合作医療の解体によって,農村社会の保健医療に現れた問題を打開するため,政府は政策を明確化し,新しい合作医療制度の模索が始まった。しかし,それは,まだ一部だけでの試行の段階にあり,現時点における有効性や普及の可能性については,未知数と言える。
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