本稿は,地域福祉のニーズの変化とその対応を,ローカル・ガバナンスの構造に焦点を当てて検討した.製紙工場の集積地として栄えた
高知県
高知市旭地域では,1990年代後半以降,新住民を中心とする再開発地区と老朽木造住宅が混在する地域へと変貌した.他方,入浴難民,単独高齢世帯,生活困難を抱えた孤立世帯や子どもなど,環境変化にともなうさまざまな地域福祉ニーズが生じた.これに対して,①住民組織代表のリーダーシップ,②収益の改善,③他機関との連携,を特徴とする地域住民の主体的な対応を軸にしたローカル・ガバナンスがそのつど形成された.住民組織と行政との関係は活動の展開過程において,対立から相互協力的な関係性へと深化した.このように,行政の役割の再定義も含め,地理学の視点からマルチスケールでローカル・ガバナンスの再構築の過程を検証することが求められる.
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