旧ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏は、2019年に87歳で死去した。生前、少年たちに性加害を繰り返していたことが、2023年3月、イギリスの公共放送BBCの報道を端緒に社会に広く知られるようになった。
これに伴い、喜多川氏や同事務所をめぐる過去の報道について、国内の放送局は批判を受けた。そのため、NHKと民放キー局はそれまでの報道を検証し、結果を放送した。2004年には司法で認められていた喜多川氏の性加害を、伝えてこなかったことなどが確認された。
では、伝えてきたこととはどのようなことだったのか。本研究ではこの点に注目した。今後、さまざまな知見をもって、喜多川氏をめぐる報道が検討されるためには、伝えてきたことをまとめておくことも重要になると考えたからである。
そこで、喜多川氏の死去直後、2日間で放送されたNHKと民放キー局の夜のニュース・報道番組を対象とし、「内容分析」の手法で量的に放送内容を整理した。そのうえで、質的な「フレーム分析」の手法で、番組が喜多川氏を描いた複数の切り口(フレーム)を導いた。
内容分析を行った結果、各番組が喜多川氏の死去に際して言及したことは、「追悼」「功績評価」「エンタメへの思い」「本人の横顔」に大別できることがわかった。
そして、フレーム分析の結果、喜多川氏が「偉大な存在」「平和の人」「理想の父親」「『ジャニーさん』というキャラ」の、4つの切り口で描かれていたことがわかった。さらに、喜多川氏への批判的な要素はなかったことから、全体的には「賛美」という切り口で描かれていたと結論づけた。
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