先史学者が問題の所在と望ましい結果を提示することによって,推論の過程を数理科学の問題に帰着させることは十分に可能である。例えば,ペトリーの有名なsequence datingをノンパラメトリック統計学として読み解いたケンドールの例があり,データさえ作成すればいつでもペトリーが蘇るのである。その後,コンピュータの考古学への応用は欧米を中心に色々な試みがなされてきた。
しかし,私が議論する「コンピュータ先史学」は,既存の考古学にコンピュータを応用するという受け身の役割ではなく,コンピュータを使って先史時代の解明のための新しい方法を確立すること(コンピュータとともに新しい先史学を創造すること)を目指しており,その概念を「考古学の方法で記録されたデータや考古学に関連するあらゆるデータを情報処理するための体系的方法である「考古情報学」を確立し,先史学として意味のある仮説検証をコンピュータによって実現すること」と定義している。
そのために必要な基本機能は「論理検証支援機能」,「解析検証支援機能」,「観察検証支援機能」,「情報検証支援機能」,「共同研究支援機能」と考えられるが,現実にはべースとなる考古学の情報に関しての情報科学・情報生態学・情報管理学的アプローチが今日に至っても適用されておらず,従って「考古情報学」の確立が緊急の課題と認識された。
また,「コンピュータ先史学」では価値の定まった客観的な情報よりも,価値の定まらない未知の主観的な情報を分析することによって新しい仮説を生成・検証するため,既知であるところの〈知識データ〉や〈記録データ〉よりも,それらから2次的に作成される〈戦略データ〉をどのように情報管理学的に設計するかが成否のポイントになる。
併せて,高度情報社会に対応した先史学・考古学の新しい形態について議論し,ビジョンを策定しておくことも「考古情報学」を担当する者の重要な役割である。
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