近代工芸が歩みを始めた明治期以降,工芸は自らの根拠となる概念を求めて多様化した。そして,その過程で提唱された民藝論による「用の美」が,現在も工芸を示す際の印象的な用語として社会に浸透している。一方で工芸の造形を巡っては,素材の特性を軸にした技術の展開が,創意と一体化を成す造形思考が示され,工芸は本質的な表現の論理を得ている。但し,一般的な解釈である工芸=用という工芸観と,常に新たな表現を求める市場との差異があることによって,工芸は未だ解りにくいものになっている。今後は,「工芸で示せること」の捉え方が一層大切になると思われる。筆者は陶芸制作を行う中で,表現する事と用の形という要素が一体化した器形制作には,工芸理解の道筋があると考えている。そこで本稿では,器形表現から享受する事項の考察を行った。器形造形には,実用を超えた感覚的・思想的機能が内在している。
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