本研究の目的は,地域ケアシステムを構築した際に保健婦が用いた能力を明らかにすることである.研究対象者は,H県内の行政に所属している保健婦52名で,15年以上行政保健婦としての経験を持ち,システムを構築した経験のある者であった.データ収集はシステムを構築した過程について半構成式の面接で行った.面接時間は1時間から1時間半で,許可を得たうえで面接中はメモを取り,面接内容はすべて録音し,逐語的に書き起こした.また,保健婦が作成したシステムに関する資料は,可能な限り許可を得て入手した.分析方法はグラウンデッドセオリー法を用いた.52名の保健婦に面接した結果,37名の保健婦から能力を抽出した.保健婦の所属機関は保健所保健婦16名,政令市保健所保健婦14名,市町村保健婦7名であった.全体の平均経験年数は22.9年間,保健婦がシステム構築に関わった平均期間は4.7年間であった.構築されたシステムは育児グループ,介護者の会等,計64個であった.抽出された能力の項目は全部で32項目で,基礎釣能力,技術的能力,実践的能力の3つに分類することができた.基礎的能力は「研修する,見学する,勉強する」等の9項目から成り,専門職として土台となる能力であると考えられた.技術的能力は「家庭訪問する」等の15項目から成り,地域において,個人,家族および集団に対して看護を提供するための技術能力であると考えられた.実践的能力は「地域ケアシステム構築のための地区診断」等の8項目から成り,システム構築を実践するための具体的な能力であると考えられた.これらの能力の中にはさらに多くの小項目を持つものもあり,システムを構築していった過程で,保健婦は非常に多くの能力を用いていることが証明された.
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