日本公衆衛生雑誌
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公衆衛生活動報告
地域の健康問題に関する保健師による事業創出のプロセスと方策 —課題設定と事業案作成の段階に焦点を当てて—
吉岡 京子麻原 きよみ村嶋 幸代
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2004 年 51 巻 4 号 p. 257-271

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抄録

目的 保健師が起案者として地域の健康問題に対処する事業を創出する場合のプロセスと方策の探求を目的とした。
方法 既存の理論枠組みを検証する Yin のケース・スタディ法を用いた。理論枠組みとして,政策過程モデルを用い,最初の 2 段階すなわち,「課題設定」と「事業案作成」の段階に焦点を当てた。研究参加者は,市区町村において事業化の経験を有する保健師 5 人で,面接調査によって情報収集をした。創出された事業は,一定の質を保つため,施策に明示され,かつ予算を確保していることをその条件とした。
結果 5 人の保健師に共通する事業化の方策として,891個のコードを基に,26個のサブカテゴリーを作成し,さらに集約して 9 個のカテゴリーが抽出された。これらのカテゴリーを事業化のプロセスに沿って検討した結果,共通の段階が抽出された。Phase 1 は『多様な情報の統合により,地域の健康問題を明確化し,事業の必要性を認識する段階』,Phase 2 は『事業案の構想や位置付けを思案する段階』,Phase 3 は『事業案の実現に必要な資源やタイミングを見極め,そのアイデアを固める段階』であった。
 保健師は,Phase 1 では,過去に経験したケースや社会情勢などの様々な情報を統合し,看護職の機能を活かして地域の健康問題を明確化していた。その際,既存の業務や事業の問題も明確化し,それも改善し得るような包括的な事業案を模索していた。また,Phase 2 では,行政職の機能を活かして事業の実施に必要な資源や方策を思案していた。その一方,事業案の実現可能性を高めるために,保健師の考えを行政内外の関係者などに発信していた。さらに,Phase 3 では,Phase 2 で検討した内容を踏まえて,必要な資源の確保やタイミングを見極め,即実施できるような事業案にしていた。
結論 従来保健師個人の経験に依拠していた,事業化に関する方策のうち,「ケースを生む背景の分析を通して,地域の健康問題を明確化する」,「既存の事業や業務の問題なども改善し得る包括的な事業の必要性を認識する」,「行政内外の関係者や住民の問題意識レベルを把握し,保健師の考えを発信する」が新たに見いだされた。これは従来言及されておらず,事業化を進める際の手がかりとなる知見である。

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© 2004 日本公衆衛生学会
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