わが國に於ける霜柱の研究はかなり舊く, 凍上現象の組織的な研究も近年盛んに行われて來た。そして凍上の原因及び機構そのものゝ究明は, 現場調査に基いて, 亦人工的凍上に依る實験的研究から定性的には殆んど明らかにされている。それらの研究は周知の如く, 大部分が實驗物理學者達の手に依つてなされて來たものである。
戰後數年を經た今日, 國内の土木工學各分科が再批判されて明曰への堅實なる第一歩を踏み出してもよい時機に到達した。
凍上現象に關しては, 土の工學的因子の多様性から考えて, 物理的解析から前進すべきであることは當然であるにしても, われわれ技術者としては土性論との關聯性に於いて把握されなければ有効な應用性の活用は出來ない。かくして, その定量性に基いて始めて確實なる凍上現象に對する工學的對應策がとり得るのである。結局道路に對しては雪氷道路工法が確立さ一般工學に於いては凍上工學という分科が體系ずけられることが必要なのである。
本報告は土性論的に觀たる不凍上限界の特異性に關しては, わが國に於いては殆んど行われておらぬ點に鑑み, 土の物理常數, 粒徑分析, 透水係数, 及び能働
毛細管
上昇高, 等の土性常數を基點として, わが國に於ける凍上性路床土に對して限界決定試驗を行つたものである。
凍上性路床土の判定は, 土の物理常數に依るWillis氏の方法, 不均等係數及び粒径分析に依る Cassagrand A.氏の方法及びBeskow氏の方法を適用し, 直接氣象の影響を受ける路盤の
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上昇高の決定にはFreiberg基礎研究所の方法を用いて行つた。その結果, 青森縣下の火山次質路床土はいずれの判定法に從つても凍上性であることが明瞭に認められ, また路盤の凍上防止には能働
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上昇高を測定することに依つて地下水位の低下を如何にするかを判定することが可能なることを明にし得た。實際の路盤に於いて凍結面下限に流入する水量が蒸發水量と平衡を保つている限り,
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上昇水に依る補給が繼續されている筈であるから, 實驗に於いては試料の上面をドライヤーにて熱風乾燥し, その平衡の破れる瞬間 (路面蒸發水量>凍結向下限に流入する水量) の上昇水量を測定して, Darcyの公式に依り求めた算定水頭を地値
毛細管
上昇高と定めた。從來,
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上昇高の測定には乾燥土の濕潤上昇高 (受働
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上昇, 高) を測定する方法が行われていたが, 實際の路盤に於ける路床土の濕潤状態を考えるならば, 乾燥土に於ける受働
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上昇高をそのまゝ現地路盤に適用することは明かに不合理である。
本實驗に於いて求めた等値
毛細管
上昇高, 即ち能働
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上昇高は五種の試料に就き, 間隙比0.93~1.95に對して0.81~7.25mの如き値を示し, 從來の乾燥土の濕潤上昇高 (受働
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上昇高) は粒径0.1~0.005mmに封して1.24~3.05mであるから明かに大なる値を示すことがわかる。
實際の路盤に於ける濕潤状態の
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上昇には二つの場合が考えられる。その一つは濕潤線の異つた領域の水頭差に依る重力水の
毛細管
上昇であり, 他の一つは路面蒸發に依る路床土飽和水の表面張力の變化に基く
毛細管
上昇である。
本實験は路而蒸發に依る
毛細管
上昇力を前者よりも大なる影響を與えるとの假定に基くものである。
實際の路盤に於ける路面蒸發水量が何等かの方法で測定可能ならば (この問題に就いては追つて實驗の豫定) 能働
毛細管上昇高を現地路盤に就いての等値毛細管
上昇高として算定することが出來る筈である。
かくして凍上現象に封する工學的對應策は, 求め得た能働
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上昇高に基いて, 次の如き各工法を現地路盤の状況に應じ探用すべきである。
能働
毛細管
上昇高に相當するだけ地下水位を低下させる透過暦工法が實際上不可能の場合には,
毛細管
力低下工法, 防凍工法, 防水工法等を行うのである。
能働
毛細管
上昇高の測定に就いては以上の他, 試料上の收縮量に相當する壓力をJürgensonの
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計, または膨脹測定器 (壓密透水装置) にて測定し, 能働
毛細管
上昇壓を算定する方法もあるが今回は行わなかつた。
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