〈目的〉中学校の調理実習授業は、授業時間数の減少と子どもの実態の変化により困難な状況になっている。調理実習授業のあり方を検討するためには、中学生の調理に関する実態を明確にする必要がある。
そこで、中学生の家庭生活における調理に関する経験はどのように変化してきたかを1970年代と1980年代の先行研究と比較をすることとした。1970年代は、食の外部化は少なかった時代であり、1980年代は、食の外部化率が急激に増加している時代である。この2つの年代と比較することで、食生活の変化が子どもの家庭生活における調理に関する実態にどのような影響を及ぼしたのかを明確にし、調理実習授業のあり方を検討する参考資料とする。
〈方法〉2011年2月、東京都E区立M中学校、1・2年生計376名を対象に質問紙法による調査を実施した(回収率100%)。
調査内容は、家庭生活状況、調理へのモチベーション、家庭における調理経験についてである。この結果を、清水(1973)(1974)(1977a) (1977b)、岡野,清水(1976) (1977)、田部井,仙波(1991)の調査研究結果と比較した。spssを用いて集計し、Χ
2検定を行った。
〈結果と考察〉中学生の家庭における調理の実態は、約30~40年前の小・中学生と比較して、大きく変化していることがわかった。
まず、家庭での調理手伝い頻度と包丁使用頻度が大きく下がっていた。それに伴い、調理用具の認識についても下がっており、調理経験の有無によって差が認められた。しかし、おろし金、すりこぎ、落としぶたは、全体での認識が低く、調理経験の有無による差がなかった。これらは家庭で使用されなくなってきたことによると考えられた。
家庭での調理の内容は、手伝いにおいては、小学校題材の内容が多いが、一人調理の場合は、食の多様化の影響を受け、様々な料理に挑戦していた。
男女間の有意差は、調理に対するモチベーションや家庭での調理経験、食事に関する手伝いや包丁使用頻度にみられ、男子より女子が調理に対して意欲的で、家庭において調理や食事に関する活動を行っていた。学年が上がるほど男女差は広がっていたが、現代は1980年代ほど大きな差ではなかった。
調理へのモチベーションが高く、家庭での一人調理の頻度が40年前と同じ程度であることから、現代の中学生は、調理の手伝いをしたくても家庭生活の中で調理をする場面が減少しているために、調理手伝い頻度や包丁使用頻度が下がっていると考えられた。
〈引用文献〉
岡野純,清水歌. (1976). 「食物」分野における児童の家庭生活の実態に関する研 究 (資料).家政学雑誌,27(6), 455-459.
岡野純,清水歌. (1977). 「食物」分野における児童の家庭生活の実態に関する研 究: 6年生児童の調理作業について(資料). 家政学雑誌, 28(8), 577-581.
清水歌. (1973). 家庭科教育と小学生の家庭生活の実態に関する研究(第1報) : 「家庭」分野について. 京都教育大學紀要.A, 人文・社会, 42, 69-95.
清水歌. (1974). 家庭科教育と小学生の家庭生活の実態に関する研究(第3報) : 「調理」「裁縫」について. 京都教育大學紀要.A, 人文・社会, 44, 49-58.
清水歌. (1977a). 「調理」に関する児童の知識・経験に関する研究(第1報) : 調理 作業について. 家政学雑誌, 28(1), 67-75.
清水歌. (1977b). 「調理」に関する児童の知識・経験に関する研究 : 調理器具類 について. 京都教育大學紀要.A, 人文・社会, 51, 37-56.
田部井恵美子,仙波圭子. (1991). 児童, 生徒の包丁の使用実態及び技能の変容. 日本家庭科教育学会誌, 34(1), 31-37.
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