日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第55回大会・2012例会
セッションID: 3-1
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2012年度例会:口頭発表
中学生の調理技能・技術の実態
1970・80年代と比較して
*浅井 直美石井 克枝
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抄録

〈目的〉中学校の調理実習授業は、授業時間数の減少と子どもの実態の変化により困難な状況になっている。調理実習授業のあり方を検討するためには、中学生の調理に関する実態を明確にする必要がある。そこで中学生の調理技能・技術について実態調査を行い、数値的な比較ができる1970年・1980年代の先行研究と比較をし、現代の中学生の調理技能・技術を明確にすることを目的とする。
〈方法〉2011年4月、東京都E区立M中学校、3年生16名(男女8名ずつ)、2年生20名(男女10名ずつ)の計36名の生徒を対象に小学校の調理実習内容である、野菜の薄切り、じゃがいもの皮むき、ほうれん草をゆでる、野菜炒め、みそ汁を調理させ、その様子を観察評価した。清水(1970)、田部井,仙波(1991)の調査研究結果と比較した。また、野菜の薄切りとじゃがいもの皮むきについては、C大学1・2年生32名対象に同様の調査を実施し、中学生との比較を行った。SpssおよびExcelを用いて集計し、t検定を行った。
〈結果〉
1)包丁の持ち方・食品の押さえ方 望ましい持ち方が1970年代の中学生は66%であったが、本調査では45~62.6%と減少し、持ち方が不安定で調査の間に持ち替えている生徒が多かった。食品の押さえ方も、1970年代は半数以上が望ましかったが、本調査では、適切でない押さえ方が56.3%と半数を超えていた。
2)野菜の薄切り 1980年代の中学1・3年生との比較では完全枚数率と1切片の薄さについては、本調査の結果とほとんど変わらない良い成績であった。しかし、切る速さは、2倍以上遅く、大学生についても1980年代の中学3年生より遅い結果であった。また、本調査において男女間、学年間についてt検定を行ったが、いずれも有意な差は認められなかった。
3)じゃがいもの皮むき 所要時間は、1980年代より多くかかった。廃棄率についても1980年代より多かった。しかし、皮むき時の手つき・皮の状態については、1980年代と差はなかった。本調査において手つきと皮の状態について男女間に有意差が見られ(p<0.05)、男子より女子の方が成績が良かった。大学生は、廃棄率と所要時間は1980年代の中学生と同程度であったが、手つき・皮の状態については、良い成績であった。
4)小学校題材の調理場面の観察評価 それぞれの調理を観察評価した結果を示し、できていない項目を明らかにすることにより、指導のポイントを示した。ほうれん草のゆで方では、洗い方、ゆで時間ができていない生徒の割合が高く、この点が指導のポイントであった。ゆで時間については沸騰を見取ることができないことが原因であることがわかった。野菜炒めでは、調味の仕方、炒め時間、切り方についてできていなかった。適切な塩の計量と炒め時間の指導および料理に適した切り方について指導のポイントとなることがわかった。みそ汁では、火加減が強すぎたために、だし汁が蒸発し、減少しただし汁にレシピ通りの分量の味噌を入れたことにより塩分濃度の高い仕上がりになっていた。火加減の調節の仕方および調味の仕方に指導のポイントがあることがわかった。
5)調理実技調査の得点化と相関関係 各調査項目のデータを技能が高い場合は得点が高くなるように換算し、野菜の薄切りから「切る技能点」、じゃがいもの皮むきから「むく技能点」、小学校題材の観察評価から「加熱総合点」を算出した。これらの技能点と調理経験との関係を見たところ、調理経験と技能点との間に相関はなく、影響を及ぼすものではなくなっていることが示された。
〈引用文献〉 清水 歌. (1970). 疱丁作業(薄うちの仕方)に関する研究-1-打ち方の手つきについての調査. 家政学研究, 17(1), 70-75.
田部井恵美子,仙波圭子. (1991). 児童, 生徒の包丁の使用実態及び技能の変容. 日本家庭科教育学会誌, 34(1), 31-37.

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© 2012 日本家庭科教育学会
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