古来より殊の外珍重されているマダイ(Pagrus major)の岡山県での近世以降の食習慣に着目した。タイと名がつく種類は多く,200種類を超えるといわれるが,体長が大きいマダイが特に貴重で格上とされた。岡山県の中世の記録にタイの記述がみられ,地元守護への上納品,神饌,交易品として重要な産品であった。
岡山県の江戸時代の記録である『御後園諸事留帳』においてもタイは再々登場し,上層階級の饗宴や日常の食で,あるいはもてなしで,浜焼に調理され使用されていた。また,熨斗とともに正月などの祝儀に大きさを指定した生タイが献上されていた。このタイを重要視する食習慣は昭和中期まで正月,田植え,婚礼時などの行事でタイが膳に載り継承されてきた。現在もその食習慣は,正月や,儀礼食(お七夜,百日,長寿)において伝承されているが,変容しつつある現状である。
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