岡山県南部地方で食用とされているヒラ,サッパ,コノシロの食習慣に注目した。これら三種の魚は分類学上極めて類似し,白身が多く,しかも小骨が多いという特徴を示す。酢の物,すし,焼き物,煮物などの多彩な調理方法で三種は食べられるが,昭和初期から大正時代には,稲作行事や祭りの行事に合わせ使い分けがされている魚であった。その食習慣が形成されている背景を,江戸時代の岡山藩の文献より明らかにした。三種は岡山藩の産物として認定され,幕府に届け出をされた魚であった。後楽園での各種行事の饗応膳にも使用された魚であったが,藩主など身分階級の高い人の膳にはのらない魚であった。この江戸時代からの食習慣は,調理法を伝承しながら,現代も他の魚の食習慣とともに岡山県南部地域に継承され,岡山県独自の食習慣を形成している。