血液透析施行中の慢性腎不全患者に発生した膀胱腫瘍に対し, BCG膀胱内注入療法を安全に施行しえた症例を経験したので報告する. 症例は58歳, 男性. 透析歴3年, 原疾患はlgA腎症. 血液透析施行中の前医にて多発性広基性乳頭状腫瘍を認め, 1996年12月TUR-BTを施行. 病理組織学的にTransitional cell carcinoma (TCC), grade 3, pT1bおよびCISと診断され, 精査加療目的で当科紹介入院. 腹部・骨盤部CT scanおよび逆行性腎孟造影にて長径2.7cmの左尿管腫瘍を認めた. 膀胱温存を目的とした術前補助療法としてCDDP併用放射線療法 (CDDP 35mg/m
2を2週間に1回で計2回, 小骨盤腔に3060 cGy) を行い, 全骨盤腔に放射線単独照射を1980 cGy追加した後に, 左腎尿管全摘術を施行した. 左尿管腫瘍は, 病理組織学的にTCC, grade 3, pT1bで下部尿管にCISを認めた. 膀胱内は組織学的にdysplasiaを認めるのみであったが, 尿管下端にCISを認めたことより, 術後再発予防目的でBCG膀胱内注入療法を計8回施行した. 以後, 近医にて血液透析を施行し月1回当科外来通院中であったが, BCG膀注療法終了5か月後より原因不明の発熱を認め, 悪性リンパ腫による消化管出血のため死亡した. 剖検の結果, 残胃から十二指腸に腫瘤および肝転移を認めたが, 膀胱には著変なかった.
抗結核薬 (lsoniazid; INH, Rifampicin; RFP) 3日間の予防投与と膀注後の洗浄により, 血液透析施行中の慢性腎不全患者に対するBCG膀胱内注入療法を重篤な副作用や合併症なく安全に施行可能であった.
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