電子スコープの先端に組み込まれたCCDが,赤外線に感受性があることを利用し,体外から赤外線を照射し,腹壁透過赤外線により,胃内を観察する体外照射式赤外線電子スコープを開発し,臨床例に応用し,種々な面から検討を加えた.対象とした症例は,胃潰瘍5例,胃癌2例,胃炎(萎縮性あるいはびらん性)7例,十二指腸潰瘍2例,その他10例である.腹壁を通しての胃内の赤外線観察では,前壁側は,全般的にほぼ満足できる像が得られたが,部位により若干の制限があった.一方,後壁側では,前壁を通しての間接的な照明となり,十分な知見は得られなかったが,ある程度の観察は可能であり,光量を増大する等により,後壁側もこの方法で観察可能となると考えられた.透過赤外線による胃内腔の観察では,胃前壁において粘膜面の細かい性状は描出されず,また,正常例,萎縮性胃炎において,通常光観察では著明に認められる胃粘膜面の表在血管は,全く描出されなかった.しかし,比較的深部に存在すると想定される太い血管像が明瞭に認められ,その分枝状況も詳細に観察可能であった.胃癌例では,癌周堤周辺部でのpooling様所見,胃潰瘍例では,瘢痕中心部に向かう深部血管像,並びにその中心部では血管が認められず,この所見は,瘢痕を表わすものと考えられた.いずれにしても,この方法により胃壁深部情報特に血管像を中心とした所見の把握が可能であると考えられた.今回報告した方法によれば,リアルタイムに可視光による通常観察と赤外線像による観察が可能であり,両者の切り換え,あるいは,両者を併用し,両者の特長を生かして観察することも可能であった.今後,機器の改良に加え,症例を重ね,現在行っている胃内照明方式による赤外線電子スコープによる画像と比較検討することにより諸疾患における通常光では観察できない深部の血管像を中心とした所見把握を,追求し診断面での向上を図りたい.
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