【目的】
棘上筋は肩関節安定性に関わる重要な筋であり,その機能評価については多くの報告がある.また,表面筋電図は非侵襲的に筋機能評価が可能であるが,棘上筋のような解剖学的に深部となる筋はcross talkにより評価が困難とされるため,ワイヤー電極等により侵襲的に行われることが多い.
今回,異なる2つの筋電波形の同期性や類似性を把握するために用いられる
相互相関関数
により,表面筋電図による棘上筋の機能評価の可能性を検討したので報告する.
【方法】
対象は健常成人男性10名(25.6±6.1歳,平均身長174.3±3.6cm,平均体重67.6±5.1kg)で,全例利き手は右利きであった.
筋電計はMYOSYSTEM1400を用い,計測および解析にはBIMUTAS2を用いた.被検筋は棘上筋,僧帽筋上部線維,僧帽筋中部線維,三角筋中部線維とし,Delagiらの方法を参考に表面電極を貼付した.測定条件は,立位にて肘関節伸展位で肩甲骨面挙上45°位を測定肢位とし,前腕遠位部に重錘負荷(無負荷・1kg・2kg・3kg)を加えたときの筋電を測定した.
筋電波形の処理および解析は,全波整流後に安定した1秒間の包絡線を求め,各測定条件における(1)棘上筋-僧帽筋上部線維,(2)棘上筋-僧帽筋中部線維,(3)棘上筋-三角筋中部線維の相関係数を
相互相関関数
より求めた.
【結果】
(1)棘上筋-僧帽筋上部線維との相関係数は0.21~0.64の範囲(10人中5人は0.3以下)であり,重錘負荷が増加してもその傾向に変化はなかった.(2)棘上筋-僧帽筋中部線維は0.21~0.48の範囲(10人中8人は0.3以下)であり,重錘負荷による影響は3kgで相関係数は増加した.(3)棘上筋-三角筋中部線維は0.19~0.35の範囲(10人中8人は0.3以下)であり,重錘負荷が増加してもその傾向に変化はなかった.
【考察】
棘上筋と解剖学的・機能的に関連する筋との相関係数を求めた結果,棘上筋と各筋間には軽い相関がみられた.これはcross talkの影響と考えられ,特に,棘上筋テストとして用いられている上肢挙上位保持において,僧帽筋上部線維は解剖学的・機能的に棘上筋との関係が強いことから,他の筋よりcross talkの影響があったと考える.しかし,僧帽筋上部線維との相関係数は10人中5人が0.3以下であったことから,表面筋電図による棘上筋の機能評価の可能性は示唆されたと考える.ただし,同じ上肢挙上位保持であっても対象により相関係数が異なるため,cross talkの影響を考慮することが必要であり,
相互相関関数
より相関係数を確認した後に,筋機能評価を行う必要であると考えられる.
今後,ワイヤー電極等の比較を含め,cross talkの影響を受けにくい測定肢位や条件を検討し,客観性のある棘上筋の機能評価につなげたいと考える.
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