運動器疾患に対する運動療法は個々の筋の筋力強化や可動域運動だけでなく,機能的な動きを向上させる必要がある。運動の量ではなく質を改善させる運動プログラムを患者の問題点に合わせて考えることが重要である。関節,筋,神経といったハードウエアーの治療だけでなく異常な運動パターンの修正を考慮した脳のソフトウエアーの治療を目的とした機能的運動療法が必要である。
物理的ストレスと累積加重型損傷
腰痛や,股関節,膝関節痛など運動器疼痛症候群は明らかな外傷や,腫瘍,感染症などレッドフラッグを除けばその人の長年の姿勢や生活習慣,職業,スポーツなどが特定の組織に物理的ストレスが持続的,または繰り返しにかかることによる累積加重型損傷が多い。持続的または繰り返される小さな物理的ストレスは患者が意識しない間に徐々に組織の耐性を低下させ,ある時小さな物理的ストレスで構造的損傷を起こす。習慣となった姿勢アライメントや運動パターンの異常は機能障害の原因になる。構造的損傷を起こす前にその原因を除去し,組織にかかる物理的ストレスを一定時間リセットすることにより組織の耐性は回復する。痛みにある部位を治療し患者の訴えが一時的に改善したとしても原因となっている異常姿勢アライメントや異常運動パターンを適切な運動療法により改善しなければまた累積加重型損傷は再発を起こす。
マッスルインバランスと関節のインバランス
Jandaらは,筋の損傷や,物理的ストレスに対する筋の反応により筋のタイプを姿勢筋(Postural Type)と相動筋(Phasic Type)に分類している。
姿勢筋は過緊張,短縮する傾向にあり,相動筋よりも筋力は強く主に多関節筋である。これに対して相動筋は,筋力が姿勢筋に対して弱い傾向にあり,正常な状態よりゆるんだ状態になりやすく主に単関節筋が多い。姿勢筋の過緊張は相反抑制によりその拮抗筋を抑制し相対的に弱化を起こす。主動作筋と拮抗筋の間でこのマッスルインバランスが起こると姿勢アライメントや運動パターンの異常を起こす。
またCookは関節を可動性関節と安定性関節に分類している。それらは交互に連結しており,相互に影響を与える。人の運動は硬い関節よりもより柔らかい関節で動きが起こりやすく1つの関節に可動域制限が起こると他の関節で代償運動が起こる。
可動性関節が可動域制限を起こすと隣接する安定性関節に代償運動をおこし,その安定性を壊す結果になる。例えば,可動性関節である股関節の動きが制限されると,隣接する安定性関節である腰椎,膝関節の安定性を壊し痛みの原因になる。このように関節の不安定性の原因は,隣接する可動性関節の機能障害が原因である場合があり,関節と関節の相互作用を考慮したアプローチが必要である。
機能的運動療法
マッスルインバランスや関節のインバランスは筋力テストや関節可動域テストを中心とした評価法では問題点がとらえにくい。姿勢アライメント,運動パターンの評価や筋の長さテストを中心とした評価を取り入れることにより運動の量だけではなく質の評価を行うことができる。過緊張筋の抑制,弱化筋の活性化,関節の安定化,運動パターン修正エクササイズを組み合わせた機能的運動療法について症例を提示し検討したい。
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