お茶の水女子大学(以下、お茶大と略す)では、2005年度から、
社会調査士
の免許が取得できるようにカリキュラムを構成し、現在、
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資格認定機構に申請中である。筆者は、地理学から
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免許の申請に関わったので、この経験を他大学でも生かせるように、ここにお茶大の現状を報告する。 お茶大・文教育学部は、1997年度に学部改組を行い、地理学科から人文科学科地理学コースとなった。この改組は、単に名前を変えた以上の変更であった。第1に、入学試験を人文科学科(哲学、歴史、地理)で共通に行い、2年次後期に学生たちがコース選択を行うので、地理学コースを魅力あるものにしないと学生数を確保できない。第2に、地理学科時代には認められていた測量士補免許の認定を取り消されたため、測量士補に必要と考えられるカリキュラムを手探りで構成するという不確実な状態にある。ここに、地理学コースとして、新たな免許取得の可能性を探ることが、戦略的に重要になっていたのであった。
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という免許状が設定されたことを程なく知ったが、お茶大内では、地理学がこの免許状と関係あるものと、最初はみなされていなかった。すなわち、社会学(社会理論、家族社会学)を中心として、教育学、心理学(臨床心理、実験心理)のカリキュラムを基に、
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の免許申請を行おうとしていた。これは、お茶大内の学部および大学院の編成における教員のまとまりを反映していたが、むしろ地理学に対する他学問の教員の認識が低いことが問題であったと筆者は考えている。すなわち、地理学における野外調査(巡検)は多少なりとも他学問から認知されているとしても、統計学を自在に使いこなす社会調査が地理学界で行われているとは思われていないのである。そして、それは、残念ながら事実であろう。日本の地理学界が「計量革命」を一時的に受容したとしても。 そこで、上記の
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の免許申請コースに対して、地理学からも参加の声をあげ、カリキュラム構成を多分野の中で提案することになったのである。たまたま、お茶大内で地理学の教員が7名いたため、カリキュラム上、統計学、調査法、巡検がふんだんに準備されていたことが幸いしている。当初、地理学が
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免許の申請に参加することについて、他分野の教員は懐疑的であったが、6科目を免許申請科目として提供することで、逆に免許申請の重要な部分を受け持つことになった。なぜなら、地理学が参加することにより、お茶大の
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免許は少なくとも2コースのカリキュラム(毎年40名を想定)を同時並行させることができたからである。ちなみに、他分野からの科目提供数をあげると、社会学2、家族社会学2、教育学2、実験心理学2、臨床心理学2であった。 地理学コースにとって、この多分野の科目からなる
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免許の申請を行うことは、次のようなプラスがあると考えられる。第1に、地理学コースの必修科目の他に、他学科から2科目を取れば免許が取得できる見込みのため、地理学コースの学生の多くは無理なくこの免許を取得できる。第2に、社会調査の方法論、統計実習(量的研究)を多学科から履修する慣例ができることにより、地理学コースのカリキュラムの不十分さを補うことができる。第3に、他学科学生に対してフィールドワーク(質的研究)の科目を提供することにより、他分野の研究者に対して地理学の独自性を主張することができる。
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の免許申請をきっかけとして、学内および学界内での新たな方向付けが、今後問題になってくるであろう。すなわち、関連分野の研究者と共通の言語で語れるような統計理論、統計分析、フィールドワークの蓄積が必要である。推測統計学、調査票の設計、ランダムサンプリング、データクリーニング、SPSS、分析結果の解釈など、社会調査の方法論にあたる部分を、地理学界でも受容する必要があり、それは計量地理学の財産を再認識し、カリキュラムの中に積極的に取り入れることになるであろう。それは、地理学におけるGISの位置づけと並ぶ、重要な課題である
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