本研究は, 日本の民家から見出だされた黒い戸について, その機能や意味についての考察を端緒としている。黒い戸や儀式に関する既往研究を確認して, 儀式によるエクスタシーを住空間の本質のひとつとした。そこから, 非日常(共同体)の儀式である祭りと日常(家族)の儀式である黒い戸に着目し, 共同体の儀式の空間である広間と家族の儀式の空間である納戸を中心に現地調査を行った。その結果, 日本の住空間には祭りのような儀式だけでなく, 黒い戸のような儀式を記号化した儀式性が取り入れられていることを明らかにした。また, 儀式によるエクスタシーは鋭い緊張感を, 儀式性によるエクスタシーは柔らかい緊張感を住空間にもたらしていた。
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