2011 年 37 巻 p. 97-108
大正11(1922)年に刊行された今和次郎著『日本の民家』は,紹介された民家の無名性が特徴的である。本研究では,それら民家の所在を工学院大学所蔵の今の「見聞野帖」をもとに復元再訪し,約90 年間にわたるそれら市井の民家の変容とその要因を検討した。結果として今和次郎の民家調査の史的批判を行い,それが日本の民俗学の揺籃期に並行していくつかの性格の異なった期間に分けられること,民家採集に選択方法が存在していたことを指摘した。そして,90 年間の変容分析によって民家の変容が国土改造の政策に影響を受けていることと,個々の事例の詳細な検討によって家内部の事情から発生する要因にも共通性があることをも指摘した。また,所有しているが住んでいない状態が民家の残存に特殊な意義を持つことを指摘した。