エリスロポエチン (rEPO) の中枢神経系への影響について, 抑うつ状態を伴う透析患者を用い臨床的研究を行った. 対象は血液透析患者のうち腎性貧血のためrEPOによる治療を受けている11例である. 対照群として, 性, 年齢を一致させた抑うつ状態を伴う血液透析患者を用いた. 抑うつ状態の評価はHRS, GHQを用い, rEPO, 抗うつ薬の効果をそれぞれ検討した.
その結果, 1. rEPOの抑うつ状態への効果は, 全体として抗うつ薬に近似した効果が得られた. 2. しかし, その効果は治療開始1, 2週間後に顕著にみられたが, 4, 8週間後には抗うつ薬ほどの効果はみられなかった. 3. 抑うつ症状別では, 抑うつ気分, 自殺念慮等の症状においては抗うつ薬ほどの効果はなく, 行動制止などの症状に効果が強くみられた.
これらの結果はrEPOの抑うつ状態に対する軽減作用を示唆するものであるが, その効果は抗うつ薬のそれとは特徴が異なっていた. rEPOの中枢神経作用に基づく抑うつ状態の改善はみられるものの, 腎性貧血の改善による身体症状の軽減に基づく2次的な抑うつ状態の軽快も加わり, 早期効果がみられていると考えられる. つまり, rEPOの中枢神経系への直接的な影響は否定できないが, 身体症状の改善がもたらす心理学的な2次的効果の存在も推測され, 心身相関の関与も示唆された.
現段階では, 臨床的見地から, rEPOの抗うつ作用の機序として, 1) rEPOの中枢神経作用に基づく, 抑うつ状態の改善, 2) 腎性貧血の改善により, 種々の身体症状が軽減され, 2次的に抑うつ状態の軽快, あるいは前述したように, 3) 直接的な中枢神経作用に, 身体症状の改善に基づく心理学的な2次的効果が加わる等が考えられる. 基礎実験レベルでの検討が必要であろう.
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