【目的】平成22年4月30日、厚生労働省医政局長から「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」とする通達(以下通達)が出された。 これは質が高く、安心で安全な医療を求める患者・家族の声と医療の高度化や複雑化に伴う業務の増大による医療現場の疲弊が指摘されるなか、「チーム医療」の推進がその解決の糸口として求められているからである。本協会では同年5月24日に吸引に関する基本姿勢、6項目にわたるステートメントを表明している。当院ではこれらを受けて、コ・メディカル部門にプロジェクトチームを立ち上げ、年度内吸引実施を目指して活動しているところである。そこで、これまでの活動経過と今後の計画について紹介し、その課題を考察することが本研究の目的である。
【方法】通達をうけて、吸引実施に向けた当院での活動を時系列で紹介する。その間作成した資料、並びに院内承認に向けての会議等について、その資料を回覧しながら報告する。そのうえで、課題と今後の展望について考察する。【説明と同意】対象者はなく、関わった職員には、研究の目的を十分説明をし、個人情報の保護に十分配慮した上で同意を得て利用した。
【結果】通達後、急性・重症患者看護専門看護師職員から、当院教育研修部へ本事案について照会があった。それを受けてコ・メディカル部門では部長をリーダーとし、臨床工学士、理学療法士によって構成されたプロジェクトチームを立ち上げ、本事案に対応することになった。チームのビジョンは年度内の吸引実現とし、ガイドライン、吸引手順、緊急時対応マニュアル、教育研修プログラムをそれぞれ作成することを課題とした。教育研修プログラムは教育研修部に依頼し、呼吸ケアナースの協力のもと作成した。これは全6コマで、講義と演習から成るプログラムである。内容はBLS、ガイドラインの解説、解剖生理、病態、禁忌、アセスメント、感染管理、吸引方法、人工呼吸器操作、シミュレーターでの演習や集中治療領域での臨床実習から成る。教育研修プログラム修了後、ペーパー試験と実技試験による評価を予定している。今年度の対象者は理学療法士4名のほか、言語聴覚士、作業療法士、臨床工学士の計26名である。ガイドラインは通達に基づいて作成し、実施者、実施者の要件、適応患者、記録、他職種との連携、運用規程で構成されている。他職種との連携では、コ・メディカル職員による吸引はあくまで看護師、医師不在の場面で、吸引が必要な状況に遭遇した場合を想定していることを明記している。また、集中治療領域、小児に対しては原則実施しないことにした。このガイドラインは呼吸療法委員会により承認され、看護部門ナースマネージャー会、当院管理協議会での説明を経て、院内合意に向け交渉中である。今後は教育研修プログラムを完了し、年度内実現を目指しているところであり、学術大会ではその後の進捗状況を含めて紹介する。
【考察】医療現場の疲弊、急性期病院では特に医師と看護師へ労働集中によりコ・メディカル職種の業務拡大が期待されている。その流れが本通達であり、その期待に理学療法士は答えていかなければならない。拡大された業務に応じた教育システム、業務システムの構築、さらには他部門との連携構築を図り、患者の利益が拡大することが何よりも求められている。リハビリテーションの立場から患者を総合的に評価できるアセスメント能力、理学療法以外の周辺領域のメタ知識が業務拡大によって要求される。
【理学療法学研究としての意義】吸引が業として認められたことは協会の長年の努力が結実したものであり、今後は患者の利益の観点から本事案の成果を確立していくことが求められるであろう。また背景の異なる各施設での吸引実現へ向け各々のプロセスを研究することは、理学療法士が置かれている現状を客観的に評価することになるであろう。またその評価に基づいて
組織論
としての理学療法のありようを確立していくことが肝要である。
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