独立行政法人制度の眼目は,責任と権限を行政サービスを提供する現場に委ねることによって,行政サービスの質の向上と法人業績の向上の双方を実現することにあった。法制面の論点については,中央省庁等改革の際の独立行政法人制度の創設に加えて,第二次安倍内閣で実施された法人制度の改革によって,必要条件を満たす対応がなされてきたものと評価できる。
一方で,独立行政法人の運用面において,制度設計の際の理論的背景となったNPM理論を体現した運用がなされてきたかという観点では,必ずしも十分な対応がなされてきたとは言えないのではなかろうか。独立行政法人については,これまで主として行政改革の一環として制度運用がなされてきたためであり,行政改革的な発想からは,決定的に業績マネジメントの取組が欠落していたためである。この観点においては,業績マネジメントの法人組織への定着が大きな課題として,今なお残されていると考えるべきである。
業績マネジメントの定着を図り法人制度の眼目である行政サービスの質の向上と業績の向上を実現するには,官僚文化に慣れ親しんだ独立行政法人の思考様式(マインドセット)を変革し,官僚文化に替えて成果志向の文化に転換することが大前提である。それは,法人経営の基本秩序の転換を意味するほどの大きなインパクトがあるものであり,法人の組織体質の転換が伴ってこそ初めて可能となるものである。
業績マネジメントの法人組織への定着は決して容易な道筋ではないものの,まずはその嚆矢として,法人の長の行動として2種類の行動,すなわち,自らイニシアティブをとって実践すべき行動と法人の構成員のモチベーションを維持向上させるために採るべき行動,が必要になることを本稿では提唱している。
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