下顎頭軟骨の生涯的機能には, 三相の異なる段階が存在する.胎生期から出生直後までの期間には, 下顎頭軟骨は成長能力に依存する成長軟骨として機能する.この段階の下顎頭軟骨には, 線維層, 増殖層と, 幼若軟骨細胞, 成熟軟骨細胞, 肥大軟骨細胞および石灰化軟骨層を含む軟骨層の顕著な各層区分が存在する.ラットの下顎頭軟骨では, 生後4日から30日頃までの期間は, 成長機能の減退と関節機能の促進が認められる機能移行期に相当する.生後30日以降の段階のラット下顎頭軟骨は, ほぼ完全に関節軟骨として機能する.本研究では, 関節軟骨機能の最終段階にある80週齢から120週齢までの老齢ラットの下顎頭軟骨におけるコラーゲン細線維を主に走査電子顕微鏡で観察し, 細線維の立体構築における老齢変化の過程について検討した.細線維の立体構築を明らかにするために, 下顎頭軟骨の液体窒素によるDMSO凍結割断と線維間基質の酵素による消化を行った.老齢ラットの下顎頭軟骨には線維層, 増殖層および軟骨層による層区分が認められた.下顎頭軟骨の厚径は加齢とともに減少していた.線維層では加齢とともに線維芽細胞が減少していた.細線維は関節面に平行に配列された束状構築を形成していたが, 加齢による細線維束の構築変化は認められなかった.この線維構築は, 比較観察のために用いた成熟期ラットの線維層のものと同様であった.これは, 常時外来刺激を直接に受ける線維層では, 増殖層や軟骨層の保護のために, 線維層の細線維の基本構築が比較的早期に成熟することを示唆する.線維層の深部の細線維束は斜走あるいは縦走しており, 一部の細線維束の下端は, 網状の線維構築を有する増殖層あるいは軟骨層中に進入していた.軟骨層の細胞構成は, 80週齢では大部分が大型で卵円形の成熟軟骨細胞によって占められていたが, 軟骨層深部には小型で円形の
線維軟骨
細胞が出現していた.90~100週齢の軟骨層では成熟軟骨細胞は増殖層の直下に少数介在するだけで, ほぼ全域が
線維軟骨
細胞によって占められていた.
線維軟骨
細胞は出現初期には比較的乱雑に配列しているが, 徐々に上下方向に規則的に配列変化していた.110~120週齢のラットでは, 軟骨層の
線維軟骨
細胞の多くは, 関節面に垂直方向に上下的に柱状配列しているが, 下顎頭軟骨の厚径の減少に伴って減少していた.浅部を除く軟骨層では, 中隔基質に細線維束が認められた.特に, 縦中隔基質における縦走あるいは斜走する細線維束の形成が顕著であった.細線維束は加齢とともに発達, 増加していた.100週齢を越えるラットの軟骨層では, 縦走あるいは斜走する細線維束が複雑に交錯する緻密な線維構築が形成されていた.軟骨層深部における細線維の直径は, 80週齢ラットの約45nmから, 120週齢ラットの約60nmに増加していた.軟骨層における細線維の直径の加齢変化は, 成熟期以降, 軟骨細胞の代謝機構の変化とともに随時行われる可能性があり, 80週齢頃に明瞭に出現する
線維軟骨
細胞の増加によって急進展すると考えられる.軟骨層における細線維の直径の増加や線維構築の緻密化は, 下顎頭軟骨の外力緩衝構造の発達と関連する加齢現象であると考えられる.110週齢ラットの下顎頭軟骨の1例に異常構造が観察された.この下顎頭軟骨では, 外側に線維層の肥厚と多量の線維束を含む軟骨層の存在が認められた.内側には, 菲薄化した線維層と肥厚した軟骨層が認められた.内側の軟骨層における軟骨細胞群は, 多数の
線維軟骨細胞と線維軟骨
細胞群の直上に介在する大型で卵円形の成熟軟骨細胞群によって構成されていた.これらの異常構造は進行性および退行性リモデリングからなる顎関節リモデリングの過程を示唆する状態であると考えられる.
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