老年者における
脊髄
血管障害の病態を明らかにするため, 病理解剖で得られた91例の
脊髄について肉眼的に前根動脈の分布と脊髄
血管の動脈硬化について検討した. 前根動脈は一個体につき平均5本存在し, 最も普通にみられるのは第6, 第7頸髄, 第4, 第9胸髄および第1腰髄に多く, Adamkiewicz artery は第9胸髄に最も多く, 左側から入るものが多かった.
脊髄
血管のうち根動脈, 後
脊髄
動脈に肉眼的な動脈硬化はなく, 前
脊髄
動脈の肉眼的な動脈硬化は1例にのみ認められ, 上部腰髄にきわめて限局性で軽い病変であった. 連続剖検例603例について, 各髄節レベルで横断面の標本を作製し, 前
脊髄
動脈内膜肥厚について検討したが, 内膜肥厚は16例 (2.7%) に認められたにすぎない. これらの症例の基礎疾患は高血圧と全身の動脈硬化に関連した心筋梗塞や脳血管障害の頻度が高かった. 内膜肥厚は前
脊髄
動脈全長にはみられず, 髄節性に認められ, 特に下部頸髄, 下部胸髄と上部腰髄に頻度が高かった. 内腔の狭窄は上部頸髄に強かった. また, 内膜肥厚の主体は線維化と平滑筋細胞の増生であった. 検索した症例には
脊髄
の壊死は認められなかった.
脊髄
の動脈硬化は肉眼的にもきわめて稀であり, 組織学的にも前
脊髄
動脈の内膜肥厚はきわめて少ないことを明らかにしたが, このことは
脊髄
血管障害の頻度が少ないことを説明する一つの所見と考えられた. 前根動脈の数は個体差が多く, 侵入する高さも常に一定とは限らず,
脊髄
血管障害を考える場合には根動脈の数とそのレベルについて考慮する必要があると考えられる.
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