2013 年 62 巻 1 号 p. 153-156
脊髄ヘルニアと鑑別を要し脊髄症状を呈した硬膜内くも膜嚢腫の1例を報告する.症例は80歳男性で,以前よりふらつきの自覚があり,しゃがんで作業中に急激に両下肢脱力が出現し歩行不能となった.近医受診し脊髄ヘルニアが疑われ当科紹介となった.初診時には両下肢筋力低下と感覚鈍麻,膀胱直腸障害を認めた.MRIにて第8胸椎レベルで脊髄が前方に偏位し扁平化・萎縮しており,脊髄腔造影後CTでは脊髄前方にも造影剤の流入を認め,脊髄ヘルニアを疑った.術中所見では硬膜欠損像や脊髄ヘルニアは確認できず,脊髄後方のくも膜と軟膜との間で脊髄の拍動に合わせてチェックバルブ様の動きをする嚢腫が存在していた.これを剥離し摘出した.術後MRIでは脊髄の前方偏位や扁平化・萎縮は改善し,術後早期より筋力の改善を認めたが歩行には至っていない.硬膜内くも膜嚢腫と脊髄ヘルニアは画像が近似するため,脊髄造影CTの経時的変化など更なる検討が必要と考える.