本稿は,長野県東信地域における,ゴルフ場建設反対運動と新幹線建設反対運動という,二つの住民運動を事例として,「政治的機会構造(Political Opportunity Structure=POS)」に注目しながら,住民運動の成功/失敗を左右する条件について考察した。その際,POSを構造的POSと流動的POSに分けて検討を加えた。その結果,二つの住民運動の間には構造的POSと流動的POSの双方において相違がみられた。構造的POSに関しては,「地元同意」を行う主体へのアクセス性,流動的POSに関しては,保守エリートとの関係が住民運動の帰結を左右する重要な変数であり,相対的にゴルフ場建設反対運動ではPOSが開放されており,新幹線建設反対運動でのPOSは閉鎖的であるととが確認された。また流動的POSである保守エリートとの関係は,構造的POSである「地元同意」を行う主体へのアクセスの開放・閉鎖とも関連していることもわかった。
本稿の対象である長野県東信地域は,都市―周辺という軸の上では後者に属しており,本稿での結果は,こうした条件とも密接に関連している。すなわち,周辺地域において保守エリートの動向が住民運動の帰結を左右するということは,個人化および多党化の進んだ都市部ではなく,いまだ保守エリートによる名望家支配が有力な権力構造となっている,周辺部においてのみ適合的なのである。
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