【はじめに】当院において,人工膝関節置換術(以下TKA)を施行する症例に対して,平成14年11月よりパスを運用している.パスを作成する際に整形外科医師と相談し理学療法プログラムの検討を行った.主な理学療法プログラムの流れは,(1)手術前日までに術前評価を行う,(2)手術翌日より理学療法開始し手術後7病日までは関節可動域(以下ROM)の改善に重点をおく,(3)手術後7病日以降で膝屈曲ROMが90度に到達したら歩行練習を開始する,(4)独歩可能となり手術後28病日で退院とする(手術後12病日に28病日で退院可能か検討)と,決定した.今回,パスを使用した症例の理学療法経過を見直し,治療効果について検討を行い,若干の知見を得たので報告する.
【方法と対象】TKA目的にて当院整形外科に入院加療し,手術前に歩行可能であった患者16名(59~84歳)を対象とした.調査項目は,(1)手術後の在院期間,(2)手術日から歩行器歩行開始までの期間,(3)手術日からT字杖歩行開始までの期間,(4)膝屈曲ROM(手術前,手術翌日,手術後7,14,21,28病日)とした.調査項目(1),(2),(3)については,それぞれの項目間の相関をスピアマン順位相関係数を用いて解析した.調査項目(4)については,各病日間の差を分散分析を用いて解析した.
【結果】各項目の平均値は,(1)在院期間:30.8±5.1日,(2)歩行器歩行開始:9.9±2.2日,(3)T字杖歩行開始:16.8±3.0日,(4)膝屈曲ROM;手術前:125.6±15.0度,手術翌日:88.8±19.2度,7病日:114.1±10.3度,14病日:120.6±8.7度,21病日:127.5±6.6度,28病日:130.3±6.2度であった.統計処理の結果,(1)手術後の在院期間と(3)手術日からT字杖歩行開始までの期間の間で有意な相関が認められた(rS=0.692,p<0.01).(4)膝屈曲ROMにおいて有意差が認められ,多重比較の結果,手術前より手術翌日の方が有意に低下し(p<0.05),手術翌日より7・14・21・28病日の方が有意に改善し(p<0.05),7病日より21・28病日の方が有意に改善していた(p<0.05).
【考察】膝屈曲ROMに関しては手術後14病日までの改善が大きく,その中でも7病日までの改善が大きいことがはっきりとした.この結果から現在運用しているパスの通り,手術後7病日まではROM改善が十分に行われていること,また,今後もこの期間はROM改善に重点をおく必要性が示唆された.手術後16病日でT字杖歩行を開始している場合には28病日程度で退院可能な歩行レベルに到達している.退院時期の検討を手術後12病日の状態で判断するより,手術後16病日にT字杖歩行開始になった症例は28病日程度で退院可能と判断するのが妥当と考える.今回は,在院期間が遅延する要素としてT字杖歩行開始時期が関係することが解ったが,今後さらにT字杖歩行開始が遅延する因子を追及することが必要と考える.
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