理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 414
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骨・関節系理学療法
人工膝関節置換術後の膝屈曲関節可動域の変化
*杉田 勇石澤 充浜 一広
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抄録

【はじめに】人工膝関節置換術(以下TKA)を施行する症例に対してクリニカルパスを運用し,その中で治療目標の一つとして膝屈曲関節可動域(以下ROM)120度を掲げている.しかし,症例によっては手術後にスムーズに膝屈曲ROMが改善せずに,目標に到達しないまま退院となってしまうこともある.手術前の膝屈曲ROMが手術後の膝屈曲ROMに及ぼす影響を検討し,若干の知見を得たので報告する.
【方法と対象】TKA目的にて当院整形外科に入院加療し,手術前に歩行可能であった患者41名(59~85歳)50関節を対象とした.使用インプラントはジンマー(株)製NexGen Legacy LPS-Flex(22関節),NexGen CR-Flex(28関節)であった.調査項目は膝屈曲他動ROMとし,手術前,手術後2,7,14,21,28病日,退院時の値とした.使用インプラントによって2群(LPS群,CR群)に分けた.各病日毎に群間の差をMann-Whitney検定を用いて解析した.また,それぞれの群において,手術前膝屈曲ROMと手術前以外の膝屈曲ROM間の相関をSpearman順位相関係数を用いて解析した.
【結果】膝屈曲ROMの平均値は,LPS群では手術前:124.1±16.8度,手術後2病日:91.1±19.8度,7病日:113.6±10.8度,14病日:121.1±8.7度,21病日:127.1±6.7度,28病日:130.0±6.0度,退院時:131.4±6.2度であった.CR群では,手術前:122.3±15.2度,手術後2病日:83.2±19.6度,7病日:110.0±9.5度,14病日:118.0±9.1度,21病日:123.8±8.8度,28病日:125.5±7.6度,退院時:126.4±7.6度であった.統計処理の結果,手術後28病日でLPS群の方がCR群より有意に膝屈曲ROMが大きかった(p<0.05).また,退院時でもLPS群の方がCR群より有意に膝屈曲ROMが大きかった(p<0.05).LPS群では,手術前膝屈曲ROMと手術後7病日(rS=0.538,p<0.05),28病日(rS=0.506,p<0.05),退院時(rS=0.475,p<0.05)との間で有意な相関が認められた.CR群では,手術前膝屈曲ROMと手術後28病日(rS=0.389,p<0.05),退院時(rS=0.491,p<0.05)との間で有意な相関が認められた.
【考察】手術後28病日,退院時の膝屈曲関節可動域はLPS群の方がCR群より約5度多い結果となり,LPSの方が膝屈曲関節可動域が得られやすいことが確認できた.インプラントの種類に問わず,手術前の膝屈曲関節可動域は手術直後~手術後3週までの膝屈曲関節可動域に対しては影響していない.しかしながら,手術後4週,退院時の膝屈曲関節可動域に影響を及ぼしていることがはっきりとした.術直後~術後3週あたりまでは、痛みや軟部組織の炎症の影響が大きく、炎症や痛みが落ち着いた時点で術前の角度の影響が大きくなるのではないかと考える。手術前膝屈曲関節可動域がLPSの場合は90度程度であっても,CRの場合は110度以上であれば手術後120度以上の膝屈曲関節可動域が得られると考える.今後は,膝屈曲関節可動域だけでなく様々な要素を検討し,TKA術後の理学療法プログラムに役立てていきたい.

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© 2005 日本理学療法士協会
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