本稿の目的は,「不利の累積」という視点から孤立の規定構造を明らかにす
ることである.孤立の規定要因に関する先行研究では,社会経済上の不利,家
庭生活上の不利,健康上の不利を抱える人ほど孤立しやすいことがわかってい
る.しかしこれまでの研究では,成人期の不利が子ども期の不利から引き継が
れたものであるという可能性が考慮されてこなかった.そこで本稿では,「子
ども期に不利(貧困・虐待・いじめ・不登校)を経験した人は,成人後に社会
経済上,家庭生活上,健康上の不利を抱えやすい結果として孤立しやすくなる」
という「不利の累積仮説」を,全国調査データによって検証した.
主要な分析結果は以下のとおりである.第1 に,子ども期に貧困,不登校(中
学校時代)を経験した人は低学歴になりやすく,無配偶になりやすいため,孤
立しやすい.第2 に,子ども期に
身体的虐待
,不登校(小中学校時代),いじ
め(中高校時代)を経験した人は,抑うつ傾向が高いため,孤立しやすい.第
3 に,子ども期の貧困,ネグレクトは直接的に孤立に結びつきやすい.
以上の結果から,子ども期からの不利の累積によって孤立が形成されている
こと,また,子ども期の不利それ自体(とくに貧困,ネグレクト)も孤立に対
し無視できない影響を与えていることが示唆された.本稿は,不利な状況に置
かれた子どもたちへの早期ケアこそが,将来の孤立に対する有効な予防策であ
る可能性を示している.
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