患者は64歳, 女性. 労作時に呼吸困難, 動悸を認めるようになり, 胸部X線写真上心拡大, 肺うっ血像を認め, 心不全と考えられ入院となった. 本例では心不全の鑑別診断としてサルコイドーシスも念頭に置き精査を進めることとした. 入院時検査所見ではリゾチーム軽度高値, ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド (Human atrial natriuretic peptide, 以下HANP), 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain natriuretic peptide, 以下BNP) の著明な高値を認めた. アンギオテンシン変換酵素 (ACE) は基準範囲内であり, ツベルクリン反応は陰性であった. 胸部X線写真では両側肺門部リンパ節腫脹は認めず, 心電図では房室ブロックは見られなかった. 心エコー図では左室腔拡大, びまん性の壁運動低下, 僧帽弁閉鎖不全, 心室中隔菲薄化を認めた. 心臓カテーテル検査では冠動脈に狭窄は認めず, 心筋生検標本を採取した. 心筋標本では線維化とリンパ球浸潤を伴う非乾酪性類上皮肉芽腫と, その内部に Langhans 型巨細胞を認め, 心サルコイドーシスと考えられた. Gallium シンチグラフィーでは心臓に一致してびまん性に集積亢進が見られたが, 他部位に明らかな集積亢進はなく, 他部位のサルコイド病変を検索したが指摘出来なかった.
サルコイドーシスと診断された入院1カ月後よりステロイド20mg/日内服を開始し, 治療開始後数週間でHANP, BNP値の著明な低下と, 心エコー上も心収縮能改善とともに自覚症状の改善が見られた. 症状を観察しながらステロイド減量したが, 症状増悪は認めなかった. わが国では欧米に比べ心サルコイドーシスの頻度が高く, 心機能低下をきたしたサルコイドーシスの予後は極めて悪いとされている. 中年女性の進行する心不全を見た場合にはサルコイドーシスも念頭に置き, 十分な検索を行うことが必要と考えられた.
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