本稿の目的は,福祉社会学内外の動向を踏まえて,福祉社会学研究の今
後の課題を提起することである.まず学会内の研究動向を踏まえた課題と
して,理論研究の充実の必要性が指摘できる既存の理論が前提していた
諸条件の変容や,社会政策や福祉国家を正当化するロジックの不在を受け
て,理論研究の充実は急務となっている他方で,関連分野の動向を踏ま
えた課題としては,政策全般において功利主義的傾向が強まるなか,人々
の福祉(well-being) と自由の関係の再検討が要請されている点が挙げら
れる.自由な選択を装いつつも特定の生の選択を促進しようとするリバタ
リアン・パターナリズム(以下, LP) は,自律的な生の追求を重視して
きた近年の支配的な見解,すなわち自らの福祉の実現における自由の尊重
に抵触するが,実際には人々はむしろLPを進んで受け入れている.これ
が示しているのは,人々は自由な選択を必ずしも望んでおらず, 自由を何
物にも代えがたいものとしてみなしているわけではないという事実であ
る.かねてより社会政策において,当人の生の自由とともにその帰結が重
視されてきた点もあわせて考慮すれば,当人に望ましい帰結をもたらす選
択肢を提示しつつ,それを当人自らが選び取るLPは,当人の選択の自由
と望ましい帰結のバランスを取ろうとする新たな試みである.その意味で
は,個人の福祉の実現における自由を重視する従来の見解に再考を余儀な
くさせるモーメントを含んでいる.
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