<緒言>術後せん妄は, 患者のルート類自己抜去・転倒転落などのアクシデントにつながるケースがある. 今後のせん妄予防看護の一助とするために, せん妄発症の誘因を統計学的に解析し, 検討したので報告する.
<対象>2005年8月から10月まで5A病棟に入院し,全身麻酔の手術を行った患者様147名. 平均年齢63.4歳(±13.9), 男女比は1:0.6であった.
<方法>1.患者様側および治療側の2つの要因について, せん妄発症群と健常群それぞれに各要素の比率を解析した. 比率についてはカイ二乗検定を用いて分析した. a. 患者様側の要因; 性別, 脳血管障害の有無, 認知症, 精神疾患, パーキンソン病の, 糖尿病, 聴力障害, 視力障害, 飲酒習慣, 喫煙習慣, 睡眠剤常用の有無. b. 病院側(治療を行う側)の要因; 術前訓練, 麻酔の種類, 麻酔からの郭清状態, 部屋の移動, 経鼻胃管(1-7病日), 末梢および中心静脈ライン(1-7病日), 尿管カテーテル(1-7病日), 抑制の有無. せん妄の評価はニーチャム日本語混乱錯乱スケールを用いてスコア化して行った(以下せん妄スコア). このせん妄スコアにて27点以下の患者様を, 術後せん妄と定義した. 評価は手術当日準夜帯から第7病日深夜帯までの23勤務帯とし, 1勤務帯でもせん妄スコアが27点以下になった患者様はせん妄群に分類した.
また, せん妄発症群と健常群において, 年齢・出血量・麻酔時間・第1病日のドレーン数・術前在院日数の平均値の差の検定を行った. 2. せん妄スコア(病棟帰室準夜帯から第2病日までの5勤務帯・満点150点)と年齢・手術麻酔時間・出血量・術前在院日数との相関関係を検討した.
<結果>対象となった147例中47例にせん妄を認めた. 患者側の要因として解析した11項目のうち, 性別のみがせん妄と有意な関係を示した. 治療を行う側の要因39項目を検討した結果, せん妄と有意な関連を示したのは, 麻酔の種類, 麻酔からの覚醒状態, 胃管留置(1-3病日)の有無, 末梢点滴の有無(2-7病日), 中心静脈点滴の有無(1-3病日), 尿道カテーテル留置の有無(2-7病日)であった. せん妄スコア(手術直後から第2病日までの合計)と年齢, 手術麻酔時間, 出血量, 術前在院日数との相関関係を検討した. 年齢, 手術麻酔時間, 出血量においては有意な相関がみられたが, 術前在院日数では有意な相関がみられなかった. 従来術後せん妄の誘因にあげられていた, 脳血管障害などの既往歴, 眠剤常用, 術前在院日数, 術前術後の部屋移動による環境の変化は, せん妄の発症にかかわりがないという結果が得られた.
<考察>従来, せん妄発症のほとんどが60から70歳の高齢者であり, 薬物代謝機能の低下, 脳機能の低下, 身体機能低下による回復の長期化などが考えられていた. しかし今日, 80歳以上の症例も日常的に見られるようになっている. 私たちの解析結果は, 患者様側の要因において, 患者様が男性であること以外は薬物や既往歴にせん妄の発症が左右されない可能性があることを示した. 外科手術後は点滴やドレーン類が多数留置されることがあるが, これらはせん妄を誘発する可能性があり, このような患者様の看護には術後十分な注意が必要である.
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