国内外を問わず,また研究・実践分野を問わず,近年,質的な研究アプローチや質的なデータの重要性を強調する声が高まり,事実多くの成果があがっている。しかし,従来主流であった量的なアプローチに対して,質的なアプローチを単に批判的に対置するだけでは不十分で,双方のアプローチの長所・短所を十分に見極めた上で,両者の間の緊張感ある融合,効果的な併用を求める声も強まってきた。この現状認識を踏まえて本稿で重視し検討したのは,量的なデータを徹底して質的に取り扱い,また分析することを通して,質的・量的両アプローチの融合を図ろうとする方向性である。具体的には,本稿では,質問紙調査によって得られる量的データを事例に考察した。この際,質問紙調査とは,調査者と回答者の間でなされる言語的コミュニケーションだとの原点に立ち返り,次の2点に関する分析を具体的な事例を通して行った。第1は,個々の質問項目をめぐる応答(回答者の言葉)の実存的意味を読み取る作業である。第2は,質問をめぐる言葉のやりとりが始まる以前の言わば舞台裏に隠れたコミュニケーションに注目し,それを通して回答者の「生きるリアリティ」に迫ることである。具体的には,個別の設問に対するDK・NA回答,そもそも調査に応じないこと,および,非協力的回答パターンの意味について検討した。最後に,トライアンギュレーションや混合研究法の視点から本研究の意義を位置づけた。
抄録全体を表示