【はじめに】
乗馬療法後に姿勢の対称性が得られるということは、第43回全国理学療法学術大会にて筆者が発表した.しかし、その効果の持続性については報告が少ない.
今回、継続的な乗馬療法により、姿勢の対称性の持続が得られた2例について報告する.
【対象】
当施設利用者で、わらしべ乗馬療育研修センターにて定期的に乗馬をしている2名.2名とも、乗馬以外に定期的に行なっている訓練や運動等はない.
A:脳性麻痺(痙直型両麻痺)、28歳、女性.乗馬頻度は月1~2回.屋内歩行は、ペトゥ椅子を押す方法で自立.屋外は手引き歩行が可能.
B:変形性膝関節症(左膝人工関節置換術施行)、85歳、女性.乗馬頻度は週1回~2週1回.移動は屋内外とも歩行器を使用して自立歩行.
【方法】
乗馬方法は常歩での引き馬または単独騎乗.乗馬時間は平均20分間.乗馬前後に端坐位にて2台の簡易体圧測定器(セロ、ケープ社製)を使用し、左右坐骨部の体圧を測定.左右坐骨部の体圧差から重心の左右の傾きを算出し、乗馬前後の左右差を比較した.体圧は3回測定し、平均値を取った.
【結果】
2例とも、乗馬療法の回数を重ねるにつれて乗馬前の左右坐骨部の体圧差が徐々に減少し、その傾向が持続した.
【考察】
斎藤らは、「腹横筋や深部多裂筋の筋紡錘は、脊椎の分節間の運動や位置の変化を中枢神経系に伝えて姿勢制御を行う働きを有している.さらに深部筋の筋膜コルセットが機能すると腰椎骨盤領域の安定性が向上する.」と述べている.また、坐位または立位において垂直な左右対称な姿勢を習慣化することが、これら深部筋の活動を活性化するともいわれている.
これらのことから、乗馬療法を行なうことによって、馬の歩行によるリズミカルに繰り返される一定の振幅での前後・左右・上下の複合された振動により、腹横筋や深部多裂筋の筋紡錘が刺激されたことによって、脊椎分節のコントロール機能が高められ姿勢制御に働くようになり、その結果、坐位姿勢の対称性を向上させることにつながるのではないかと考えられる.今回、継続的に乗馬を行なうことで、姿勢の対称性の持続が得られたということは、深部筋の活動が活性化し、それが習慣化されたためではないかと推察する.
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