【目的】IgG4関連疾患の多くの症例では,少量ステロイド維持療法が行われている.現時点では,どのような症例が休薬できるか,明らかになっていない.そこで今回,私たちは炎症の慢性化において関与が示唆されているIL-32とTNFαに着目し,本疾患の唾液腺組織において検討した.【方法】当科に通院中であるIgG4関連疾患21名を対象とした.治療開始1年以上経過し,休薬ができた8例と維持療法を継続している13例に分け,診断時(治療前)顎下腺標本におけるIL-32とTNFαの発現を,免疫染色にて,後向きに比較検討した.また対照としてシェーグレン症候群の小唾液腺標本を使用した.【結果】休薬群と継続群の血清IgG4濃度は,222.4±115.0(S.D.)mg/dLと983.7±501.5 mg/dLであった.顎下腺におけるIL-32発現細胞数は,休薬群で1.9±3.1/HPF,継続群で56.5±27.8/HPF(p < 0.0005)であった.またTNFα発現細胞数は,休薬群で6.4±3.5/HPF,継続群で57.0±26.8/HPF(p < 0.001)であった.【結論】ステロイド休薬可能な症例では,治療前顎下腺のIL-32,TNFαの発現は,維持療法が必要な症例に比較し,有意に低かった.診断時の顎下腺標本におけるIL-32,TNFα低発現は,ステロイド休薬寛解の予測因子になり得る可能性が示唆された.
IgG4関連疾患(IgG4-related disease: IgG4-RD)は血清IgG4高値と,IgG4陽性形質細胞の浸潤と線維化による臓器病変を特徴とする新たな疾患概念である.罹患臓器は涙腺・唾液腺と膵臓を主体に,ほぼ全身に渡り,それに起因する多彩な臨床スペクトラムを有するが,高ガンマグロブリン血症や低補体血症が発見の契機になることが多く,当初から過剰なB細胞の活性化を含む何らかの免疫異常の関与が示唆されていた.実際,IgG4-RDの病態としてB細胞でのIgG4へのクラススイッチの促進・形質細胞でのIgG4産生増加は確認されたものの,自己抗体の同定には至らなかった.また,補体結合性を有さないIgG4の生理機能などからIgG4が組織障害を惹起することは困難であり,IgG4-RDの病因とB細胞の関連は限定的と考えられていた.しかしながら,最近,患者血中に形質芽細胞のoligoclonalな拡大が確認され,また患者由来のIgGがマウスに膵病変をきたすことが報告され,病原性を有する自己抗体の存在が注目されている.さらに,自験例を含め,ステロイド抵抗性のIgG4-RD症例で抗CD20モノクローナル抗体であるrituximabが有効であることも報告され,B細胞の抗体産生能に加え,エフェクター機能の異常がIgG4-RDの病因に関連する可能性が想定されている.
【目的】IL-32は,TNFαとともに炎症の慢性化に関連するサイトカインとして注目されている.今世紀に疾患概念が確立された新規疾患,IgG4関連疾患も,全身性慢性炎症疾患の一つであり,ステロイド休薬寛解が難しい疾患で知られている.今回,私たちは,IgG4関連疾患の病因におけるIL-32の意義について,唾液および組織解析により検討した.【方法】当科通院中のIgG4関連唾液腺炎20名の唾液と15名(休薬寛解5例,維持療法必要群10例)の顎下腺標本を対象とした.コントロールとしてシェーグレン症候群20名の唾液と5名の小唾液腺標本を用いた.各疾患症例の唾液を採取し,唾液中IL-32濃度をELISA法で測定した.次に各疾患の唾液腺標本を用い,IgG,IgG4,CD68,IL-32,TNFα発現を免疫染色にて解析した.【結果】唾液中のIL-32は,シェーグレン症候群に比較し,IgG4関連唾液腺炎の方が高値を呈したが,有意差は認めなかった(P = 0.06).しかし組織においてはIgG4関連唾液腺炎維持療法必要群において,IgG4関連唾液腺炎休薬寛解群,シェーグレン症候群群に比較しIgG4,IL-32,TNFα陽性細胞数が有意に多かった.他は差を認めなかった.【結論】IgG4関連唾液腺炎の炎症の慢性化にIL-32が関与する可能性が示唆された.
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