バイオマス・ニッポン総合戦略が閣議決定され,循環型社会の形成に向けて,バイオマスが豊富に存在する中山間地域でのバイオマスの利活用が期待されているが,中山間地域のバイオマスは経済的,労働力的な問題や賦存量が明らかではないなどの理由から利活用されていない現状にある。中山間地域でバイオマスを利活用する場合,バイオマスの移動に必要とするコストやエネルギー面から地産地消的循環システムを構築する必要がある。しかし,中山間地域を対象としたバイオマスの資源循環に関した研究事例は少ない。 そこで本研究は,福島県東白川郡
鮫川
村を事例として中山間地域に豊富に存在する農業系バイオマスが含有する窒素量を分析・集計し,地域内の窒素フローを明らかにした。その結果,この地域は昭和50年以降から盛んになった畜産業により,ふん尿として406.8t/年の窒素が排出されている。飼料の内503.0tN/年が濃厚飼料・粗飼料,TMRとして村外から搬入されている。そのうち,農家が飼養する家畜ふん尿141 .2tは,そのすべてが堆肥化され堆肥中の窒素84 .8tが村内の耕地769haに投入されていた。しかし,企業が飼養する豚から排出されるふん尿中の窒素265.6tは現在未利用であり,これをたい肥化し,村内で現在作物が栽培されている農地に投入されると,1haあたり436.2kgの窒素が農地に投入されることになり家畜ふん尿に由来する窒素が村内の地産地消的資源循環に大きな影響を与えることが明らかとなった。しかし,この地域に存在する未耕作地316haや労働力の問題から化学肥料やたい肥の投入をせずに積極的な栽培を行っていない牧草地395haにもたい肥を投入した場合の窒素投入量は226.6kg/haと推計された。これらの場所で飼料作物を生産したとすると,28,440tの粗飼料が収穫できると推計され,近年,飼料作物の高騰や家畜の栄養的な問題から粗飼料多給餌による飼養が求められるため,有効利用できると考えられる。
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