【目的】
下肢の股関節・膝関節の2次元的な運動に関与する筋を,2対の拮抗一関節筋と,両関節に作用する1対の拮抗二関節筋の3対6筋の機能別実効筋に分類し,その機能を動作筋電図学的およびロボット工学的な観点より検討することで,360°の出力方向の制御が可能であることが示された.また,四肢の先端での力出力分布に対して,機能別実効筋によって関節を介して発揮されるトルクを機能別実効筋力(Functional Effective Muscular Strength: FEMS)と定義し,筋力による力出力分布は,六角形になることが理論的および実験的に明らかにされた.そこで,被験者に負担をかけない個々の機能別実効筋力を力出力分布から推定する手法が提案された.この3対6筋協調制御モデルの臨床応用を考えた場合,出力制御,出力方向制御の観点から動作解析するとき,従来の関節トルクによる解析では言及できなかった拮抗二関節筋の関与を明らかにし,人体本来の出力特性に即した解析が可能となってきた.今回,3次元動作解析装置を用いて,スクワット動作の動作解析を試みた.
【方法】
対象は下肢に既往のない健常成人14人(男性8人,女性6人,平均19.4±0.7歳)である.すべての対象者に研究に対するインフォームドコンセントを行い,了解を得た.3次元動作解析装置(MAC3DSystem:Motion Analysis社製)を用いて,Helen Hayesマーカーセットに準拠し,反射マーカー29個を皮膚に貼付した.マーカー位置座標をサンプル周波数120Hzで計測し,床反力計(ANIMA社)上でスクワット動作を3回行った.体幹前傾を極力起こさせないスクワット動作を行うように指示した.得られた情報をFEMSプログラム(計算力学研究センター)にて分析し,3対6筋協調制御機構を利用して解析を行った.
【結果・考察】
スクワット動作を屈曲相,等尺相,伸展相とし,得られた結果を,膝関節の屈伸角度と各筋の協調制御パターンで比較した.屈曲相では,後下方への身体重心変化に対する四肢先端の出力方向制御を股関節伸展筋,および膝関節拮抗一関節筋・拮抗二関節筋により行っている人数が多かった.等尺相では一定方向に四肢先端より筋出力をしているため,ほとんど出力方向制御を行う活動筋の変化はみられなかった.伸展相では,前上方へ身体重心を移動するときに,屈曲相とは逆の膝関節拮抗一関節筋の出力方向制御を行う人数が多かった.被験者の体幹軸の変化と動作戦略により,3対6筋の筋出力を変化させ,様々なパターンの出力特性のスクワット動作を行っている.しかし,体幹前傾を極力起こさせなかったため,出力方向制御は近似するパターンをとることが多かった.関節トルクで表現することが困難である四肢先端からの出力方向制御により,そこから推定される活動筋の測定が可能だと考えられる.
【まとめ】
臨床上,関節トルクでは言及できない2関節筋の活動動態を四肢先端の出力より推定することで,簡易的に実効筋の推定が可能ではないかと示唆された.
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