悪性腫瘍の心臓転移により,心電図で持続的ST上昇を示した1症例を経験したので報告する.
症例は41歳の男性昭和59年10月,陰茎癌(扁平上皮癌)のため放射線療法(局所照射),化学療法(ペプレオマイシン)を受けるが,その後,通院しなかった,昭和60年11月より,咳漱・血痰が出現し当科を受診した.心電図でV
1-V
4,にST上昇を認め入院となった.胸痛発作の既往はなく,血清酵素の上昇はみられず,異常Q波も認められなかった.心エコー図で,左室に腫瘤を認めた.CTで左肺に転移巣を認め,12月24日には血性心膜液の貯留が見られた.臨床所見,検査成績より,陰茎癌の肺,心転移と診断した.
心電図では,持続的ST上昇が続き,徐々にST上昇は増強し,また範囲(I,aV
L,V
1-V
6)も拡大した.異常Q波は,欠如していた.
持続的ST上昇は,Rosenbaumの報告に見られるごとく,癌による心筋細胞膜の持続的な障害によると考えられる.
悪性腫瘍の心転移によるST上昇の報告は本邦ではまれであり,興味ある症例と思われた.
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