変形, 流体, 電磁場などが相互に影響を及ぼす連成現象は, 研究・開発などの高度化・高精度化において重要になることが多く, 連成効果を考慮した連成有限要素解析は幅広い分野で必要とされている. この連成解析には流体・構造連成解析, 電磁場・構造連成解析などの2連成解析のほかにも, 構造・電流・熱伝導3連成解析などもあり, さらに, 連成解析アルゴリズムも一体型連成解析アルゴリズムや分離型連成解析アルゴリズムなどがあるため, 連成解析には多くの種類がある. 連成解析コードとしては, ユーザ開発の連成解析コードや連成解析機能を有する汎用解析コードのほかにも, 汎用解析コードのユーザ・サブルーチンを利用した連成解析コードや連成解析用のインターフェイスを利用した連成解析コードが開発されている. ユーザ開発の連成解析コードは開発コストや解析の信頼性の問題, 連成解析機能を持つ汎用解析コードは解析対象の連成問題に対応している必要があることやコードの変更が必要な最新理論は導入が困難である問題がある. また, 汎用解析コードのユーザ・サブルーチンにユーザ開発コードを組み込む方法では汎用解析コードとユーザ開発コードのデータの受け渡しがそのユーザ・サブルーチン内に制限されるため高度な連成解析アルゴリズムの利用が困難なことや並列解析を行うときにはユーザ開発コードも並列解析に対応させる必要があり, 連成効果に関するデータをファイルにより受け渡す方法ではデータ・ファイルの処理が複雑になることやファイルのI/O時間および同期に関する問題が生じる. 連成解析用のインターフェイスの利用ではこれらのインターフェイスが対応していない汎用解析コードもあり, また, 高度な連成解析アルゴリズムは実装が難しいと考えられる. 以上のように, これらの方法は利点と問題点が混在している状況であり, さらに, 拡張性や自由度の高い方法が必要であると考えられる.
本研究では, ユーザ開発コードと汎用解析コードを汎用解析コードのユーザ・サブルーチンおよびMPIにより組み合わせる連成解析方式を提案する. 本方式を実装するために必要な解析コードの条件, MPIの条件, ユーザの開発環境の条件について述べるとともに, 本方式におけるMPI_COMM_SPAWNを利用した解析コードの起動方法, MPI環境の初期化方法, ユーザ・サブルーチンを利用したデータの通信方法, ユーザ開発コードと汎用解析コードの通信方法について述べる. また, この方式を実装するときの解析コードの起動方法の問題点, 通信方法の問題点, 並列解析の集団通信の問題点, 汎用解析コードの利用上の問題点とこれらの対応方法について述べる. さらに, 本方式により抵抗スポット溶接の弾塑性接触変形・電流・熱伝導3連成解析システムを, 弾塑性接触解析を行う汎用解析コードMSC. Marcと電流・熱伝導連成解析を行うユーザ開発コードを組み合わせて実装する. 本システムより抵抗スポット溶接解析を行い, ユーザ開発コードと汎用解析コードを組み合わせた3連成解析が実現されていることを確認する. さらに, この3連成解析に接触電気抵抗を求めるためのミクロスケール弾塑性接触・電流連成解析を組み合わせたマルチスケール連成解析システムを実装する. 本システムによりユーザ開発コードと汎用解析コードを利用したマルチスケール連成解析が実現されていることを確認するとともに, 本方式が拡張性・自由度が高いことを示す. また, これらの解析により, 本方式により汎用解析コードの利用による信頼性の高い連成解析, 汎用解析コードのみでは実現できない連成解析, MPIの利用による連成解析の自由度・拡張性の向上, コミュニケータの分離による並列解析の容易な利用が実現できることを確認する.
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